共に。これからも。｜リアクション

共に。これからも。

　あてのない散歩というのは、時に面白い出逢いを連れてくる。
　ひょいっと倉前七瀬の前を横切ったのは、見慣れない猫だった。
（野良でしょうか？　初めて見る子です）
　元々野良猫の多い寝子島だから、どこかでひと目くらいは見かけていたのかもしれない。けれど、こうして見つめ合い、互いを意識することは今まで無かったように思う。
　威嚇されるでも、驚いた様子も見せない猫は、ただただ七瀬を見つめるものだから、なんとなく七瀬も視線を逸らせず、じぃっと見つめ返して猫の動向を探った。
　すり寄って来ないところを見ると、構って欲しいわけでもないのだろう。甘えた声で餌を催促するでもなく、この猫は視線を寄越しては１歩だけ進み、またこちらをじぃっと見つめてを繰り返す。
（気のせいかもですが、まるで「こっちへ来い」と言ってるような）
　少し近づけばとことこと歩き、足を止めれば振り返る猫は、決して人が歩くことを考慮して進んでいかない。
　道の端を歩いていたかと思えば塀に飛び乗るし、小さな子供達に「かわいい！」と声を掛けられれば、また道に降りて少しばかりサービスをする。
　なので七瀬は、見失わないように追いかけるのがやっとだった。移動速度自体は早くないけれど、油断をすればすぐ視界から居なくなる猫は、まさに気まぐれ。そうしてキョロキョロと姿を探すために足を止めれば、来るのが遅いと言わんばかりに「にゃおん」とひと鳴きされてしまう。
　どこに誘うつもりか答えもしないで、気まぐれに歩くのを付いて来いだなんて横暴な。
「はいはい、ただいま……ぅわっ！」
　猫ばかりを見て歩み進めていた七瀬は、曲がり角に差し掛かっても周囲に注意を向けず――そのまま、何かとぶつかった。
「ごめんなさい！　……って、あれ」
　物陰からの飛び出しによって体勢を崩した男性は、鞄でバランスを取りながら数歩足踏みし、こちらを睨み据える。しかし、空気を読まない七瀬はその顔を見て喜んだ。
「ウォルターさん奇遇ですねぇ」
　猫を追いかけていたことを話しつつキョロキョロと視線を彷徨わせるが、もうこの周辺には目当ての猫はいないようだ。
「残念ですが、代わりにウォルターさんに会えたのでラッキーです」
　ニコニコと微笑まれ、ウォルター・Bは盛大なため息をひとつ。
「君ねぇ……僕が車じゃなかったからいいものの」
「そういえば今日は車じゃないんですか？　歩き？　ウォルターさんはこれからどちらへ？」
　話しを聞いているんだかいないんだか。七瀬はうきうき気分で「一緒に帰ろう」と提案するので、これ以上の苦言は無駄だとウォルターは諦めた。
　最近読んだ本の話、さっき見かけた猫の話。とりとめの無い話題をウォルターと共有できることが嬉しくて、七瀬はついついお喋りが止まらない。
「すみません。ウォルターさん、退屈じゃないですか？」
「退屈はしてないけど、小腹は減ったかなぁ」
　そう言われてみれば、どこからかいい匂いが漂っていて空腹を刺激する。匂いに釣られて足を伸ばせば、少し進んだ場所にたい焼き屋を見つけた。お店の看板猫として座っているのは……さっきあった子に似てるような気もする。
「ウォルターさん、食べ歩きしませんか？」
　通常のあんこと、期間限定の桜あんを１つずつ買って、半分にちぎる。
　そうして、頭と尻尾を見比べて、ウォルターはどっち派だろうかと気になったのだが――今まさに同じ質問をしようとしたのか、ウォルターもまた半分にちぎったままどっちを差し出すか迷っていたようだ。
　２人顔を見合わせて笑い合うと、ひとまず今回は尻尾同士の交換をして、どちらが美味しいかを話しながら帰路についた。

このページにイラストを設定する