双界の決戦　――界喰らいのグラトニエル――｜リアクション

双界の決戦　――界喰らいのグラトニエル――

（けれど、いつまで持つか分からない。今のうちに氷の魔導士が詠唱に集中できるようにするには……）
　蒼留人は手にした必勝の剣を構え、いつでも動き出していいように身構える。
　夏朝は傷を負った夏夜と二一に温存していた『ふわふわきんねこヒーリング』を施し、他にも治療が必要な者の為にMP回復ポーションを飲んで治療にあたろうとした。
（あっ……）
　けれども、くらり、と眩暈がする。どうやら、思っていたよりもMPを消費していたらしい。
「まだグラトニエルは凍っています。少し休まれては？」
　どこからともなくMP回復ポーションを取り出し、露草が夏朝を支える。
　凍り付いた今こそが、正念場。冒険者達は顔を見合わせ、一斉攻撃を行う。
（見切れるタイミングとか、考える暇がなかったなぁ。……けど……！）
　二一が忍者刀を手に駆け出し、それに夏夜と碧南が合わせる。
「悠長にしている時間は無い！　速攻で畳みかけるんだ！」
「ありったけの矢を使っちゃおう！　出し惜しみは無しだね！」
　氷の中で渦巻く靄を見、凜太郎が馬上から矢を放つ。そこに都も合わせ、一気に３本の矢を放った。
　それらが刺さった場所へ、二一もまた忍者刀を叩き込む。夏夜は彼女と入れ替わりに入り込み、三度ろっこんを発動させる。氷が割れ、グラトニエルが動き出そうとしても、遅らせられるように、と。だが、度重なるろっこんの使用で疲労は積み重なっている。長くはもたない、と夏夜は感じていた。

「……早くっ！」
「わかったわ！」
　碧南が細身の剣を突き刺し、真白と瑠樹が挟み込むような形で得物を振るう。
（レンガの建物の上からやるつもりだったが……。まぁ、俺たちが頑張ったから戦場が食われずに済んだんだよな？）
　蒼留人は木に登ると、そこから勢いよく飛び降り剣を振り落とす。澄んだ金属音が響き、氷にひびが入れば、靄が少しずつあふれ始める。だが、勢いは弱い。夏夜のろっこんがグラトニエルの動きを上手く抑えているようだ。
「重ねるよ！」
　夏朝が己のろっこんを発動させる。彼女のろっこん『重く軽く』は『対象の重量を変化させる』もの。つまり、グラトニエルそのものの重さを増加させ、身動きできる余地を減らす方法を取ったのだ。

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( 'ㅅ')ﾖｼ!

　ウサギさんも引き続きじわじわと真綿で首を絞めるが如くパンプキンボムを投げ入れる。スピカは氷が割れ、グラトニエルが出てきてもいいように二発目を準備する。
（……ろっこんは使える。けど……）
　スピカは空を見、己のろっこんの発動条件――空が見える状態でお守りを握り念じる――が使える事を確認していた。だが、ここは攻撃に専念すべきだ、と認識した。グラトニエルは、確実に落とさなくてはならない敵。もう少しで落とせるはずの敵。
（……最大限の魔力で、グラトニエルを落とす！）
スピカの周りでダイアモンドダストが煌めく。冒険者達は、氷の隙間から弱々しく零れ出る靄を見ながら攻撃を続ける。
　グラトニエルが動けない今のうちに。もし動き出せば、次こそ脱落者が出る。
「これで倒れなければ、攻撃を！」
　クナイを握り締め、漏れ出る靄の中を駆けた露草が『喰らい封じ』で攻撃する。氷の罅にクナイが差し込まれたかと思えば、氷に入っていた罅がさらに広がる。靄に包まれながらも、露草は更にクナイを振るう。
（まだ倒れない？！）
　夏夜は額に浮かんだ汗をそのままに、ろっこんに集中する。だが夏朝には首を振り、杖を見た。夏朝はそれだけで最後の全体回復を使う事を決める。
（ここが正念場。使うなら、多分今！）
　そう彼女が杖を掲げた時である。

『まだまだ、よ！』

　突如氷が割れ、靄が激しく噴き出す。跳ね飛ばされた露草は鈍い音を立てて地面へと叩きつけられる。
「おにいさんっ！」
　瑠樹が助けようとしたが、更なる靄の追撃に押されてしまう。咄嗟にウォーハンマーを叩きつけ、風圧の壁を作った少年は露草を助けて、と声を上げる。
「今行くわっ！」
　二一は靄を忍者刀で払い、どうにか二人を下がらせる。
　ろっこんに集中していた夏夜もまた、強力な一撃に見舞われた。ろっこんが弾かれたのを感じた途端、彼女の身体は吹き飛んでいた。
（そうか、ここで……）