双界の決戦　――界喰らいのグラトニエル――｜リアクション

双界の決戦　――界喰らいのグラトニエル――

●結：緩やかに、よせてかえる波のように。

「……ん」
　我に返った真白は、自宅にいる事に気付いた。ふと我に帰れば、スマホに何人かから連絡が入っている。
　それよりも先に気になったのは、『ソング・オブ・カオス　公式』から来たメールだった。

　『ソング・オブ・カオス』を楽しんでいらっしゃる皆様へ。

　そこから始まったメールは『度重なるトラブルへの謝罪』から始まり、全ての点検が終わった事、悪質なハッカー集団の摘発が終わった事、徐々にゲームの修復が進んでいる事が書かれていた。
　そして、今まで囚われていたキャラクターたちのバットステータスが解除され、通常通り動けるようになったこと、アップデートが終わり次第、『食いしん坊の見習い女神、グラトー』がマスコットとして新登場することが発表されていた。
「あの女神、こんなにかわいくなっちゃった」
　真白は、ふふっ、と楽しげに笑った。

　彼女が目を覚ました頃。
　他の冒険者達もまた、自室で目を覚ましていた。
　その一人である蒼留人は、パソコンの画面を見て僅かに瞳を細める。
　そこには『Congratulations!』の文字と、色とりどりの紙吹雪を浴びる冒険者達の姿である。それを見つめているうちに、ちょっとだけ目頭が熱くなった気がして、目をこする。
（なんでだろ？　少し寂しく感じるのは……）
　蒼留人は、意識を失う前の事を思い出し、そっと窓の外を見る。

＊＊　＊

　グラトニエルを打ち倒した冒険者達は、大半がその場に崩れるように倒れた。
　スピカは意識を失い、愛馬から降りた凜太郎が少女を抱き留める。
　空から光が降り注ぎ、ウサギさんはそれを仰ぎ見……その姿に思わず何人か「脱がないんだ」という視線を向けていた。

/) /)
( 'ㅅ')＜脱がない。
　ウサギさんは、どこかどやっ、とした雰囲気でそこに立っていた。

《皆様、おつかれさまでした》

　ふと、空から声がする。
　冒険者達が耳を澄ませると、それが最初に接触した極天使コズエルであることに数人が気付く。

《混霊界は、数多の力を失いましたが、あのゲームの世界に住人を全て避難させることが出来ました。今しばらくは、NPCとして過ごすでしょう。極天使と魔侯爵、そして竜、精霊王で世界の再構築が終わるまで、もう少し間借りさせていただきます》

　コズエルの言葉に、冒険者達は驚いたり、苦笑を浮かべたりする。
　彼らの反応を悟っていたのだろうか。コズエルは楽し気に笑っているようだった。

《私達極天使と魔侯爵も、引き続きイベントレイドに登場するかとおもいます。その時はまた遊んでくださいね》

　極天使は語る。
　異世界の冒険者達は面白い存在だ、と。
　グラトニエルの脅威は去り、おそらく二度と混霊界に渡ることは無いだろう。時期が来れば、ゲームの世界と混霊界も切り離されるだろう、と。
「……少し寂しくなるわね」
　二一がそう言えば、極天使は言う。ゲームのデータとしては残り続けるから、と。
　いずれ、ゲームの世界へ逃げた住人達も、本来の混霊界へ戻る。その時が本当の別れだろう、と冒険者達は考えた。
「確かに大変だったけれど、ちょっと楽しかったかも」
「……そうだな」
　碧南と凜太郎が顔を見合わせて頷いていると、空から降る光が強くなりアナウンスが流れる。

〈特別レイド：界喰らいのグラトニエル討滅戦　冒険者側勝利にて終結〉
〈世界開放：全エリア公開〉

　冒険者達が歓声を上げ喜びをあらわにする。
　しかし、露草だけはアナウンスにノイズが入ったのを聞きのがさない。彼は仲間達に静かにするよう頼む。すると、そのアナウンスが機械的な物から別の魔侯爵の物へと変わった気がした。

　――寝子島の冒険者達に、最大限の感謝を。

　瞬間、冒険者達の視界は真っ白に染まった。

＊＊　＊　＊

　それから、数日後。
「ねぇ、これって……」
「多分、『ソング・オブ・カオス』のだね」
　夏朝と夏夜は、それぞれのスマホに来たメールを見、更に驚いた。冒険者達の戦いが動画としてあがっており、プロのイラストレーターが夏朝と夏夜のイラストを送ってくれたのである。
　

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