【ホワイトデー】ホワイトメイドランド☆｜リアクション

【ホワイトデー】ホワイトメイドランド☆

〇ホワイトキャッスルデート

「あれ？」
　三折部朝衣は目を見張りました。
　今日は婚約者の住沢遥人と一緒に休める珍しい日で、何をしようかと考えていたのでした。
「あたしたち──いつの間におめかししてこんなところに）
　それは、外壁が真っ白なホワイトチョコみたいな──しかも甘い匂いが漂って。
「これ、本物のチョコだ」
　指先で壁のすみっこをすくって口に入れた遥人は、そう声を上げたのでした。
「え、……全部チョコでできてるお城？」
　まるでおとぎ話みたい、と思いましたが、実際に目の前にあるのだから仕方がありません。
「もしかすると夢かもしれないけど」
「夢にしては妙にリアルだね」
「……まあ、ここまで来たら……入っちゃうか？」
　そんな会話を経て、二人ははお城の中へ入っていったのでした。

「いらっしゃいませ。招待状はお持ちですか」
「……えっ？」
　メイドさんに迎えられ、朝衣が焦っていると。
「君のバッグから見えるそれ、もしかして」
　遥人に指摘されバッグの中の紙を取り出すと、『招待状』と書かれていました。
「ようこそ、白の女王様のお茶会へ」
　かわいらしいメイドさんは、にっこりと朝衣たちにお辞儀をしたのでした。

「あたしたちいつの間にかお茶会に招待されていたの？」
「らしいね」
　朝衣は落ち着かず、きょろきょろと城内を見回します。
「チョコでできたお城なんて、少しでも暖かくなったら溶けちゃうんじゃない？　結構人もいるみたいだし……」
「ふふふ、そんな心配はしなくて大丈夫ですよ」
　その声に向き直ると、冠をつけた白いドレスの女性が立っていました。
「……女王様？」
　どこかで見たような、と思いつつ言葉が口をついていました。
　女王様というぐらいだから高貴な──庶民には近づきがたい感じかと思っていましたが。
「ここは今日だけの夢の世界なのです。だから、心配しなくていいんですよ」
　微笑む女王様の眼鏡の奥の目は優しくて、案外気さくなお方に見えました。
「そうなんですね……」　
　のんびりした声で言われると、なんとなく安心してしまいました。
「まだおなかがすいてなければ、城の中をご覧になってください」
　女王様にそう言われ、メイドさんが地図を渡してくれました。
「ありがとうございます。それじゃ行ってきます」

「塔が４つあるみたいね。登ってみましょうか」
「ああ」
　途中、走っていくメイドと少年と、ぴりりりと笛を吹きながらそれを追いかけるメイドさんに遭遇したりもしたけれど、他は至って静かなものでした。
「すごい、町がよく見えるわ」
　塔の上で、朝衣と遥人は景色を堪能しました。
「ここは九夜山のあたりなのかな？」
　眼下には山が広がって、その先に寝子島市内が見えて、もっと先には海が見えるのでした。
「一通り見たけど、あとはどこへ行く？」　
「厨房を見られるなら見学したいけどな」
「さすがに関係者以外お断りじゃない？」
　それでも二人は厨房の近くまで行ってみました。
「あっ、ごめんなさい」
　緑色の髪のメイドが、白いハート型のオムライスを持って飛ぶようにやってきて、二人は廊下の端に寄りました。
「おいしそうね。なんだかおなかがすいてきちゃったわ」
「それじゃ、そろそろ戻ろうか。ここに立ってるのも邪魔になりそうだし」
　一通り好奇心を満たした後で、二人はお茶会の会場へ戻っていきました。

「美味い！」
　ホワイトオムライスとハートのパフェは、シェフの遥人が絶賛するぐらいの美味しさでした。
「ほんとね。満足だわ」

「ご満足いただけましたか」
　いつの間にか女王様が立っていました。
「はい！　遥人はシェフなんですけど──」
　なぜか遥人とののろけ話とかしてしまって、女王様はうらやましそうに相槌を打っていたのでした。