【ホワイトデー】ホワイトメイドランド☆｜リアクション

【ホワイトデー】ホワイトメイドランド☆

〇いつの間にかメイドに？

「え、何で……メイド服！？」
　鴻上彰尋は目を疑い、自分の服を見下ろしました。
　気が付いたらメイド服を着てキャッスルの厨房に立っていたのです。
（ええっ……）
　れっきとした男性で女装趣味もない彰尋は大いに戸惑いましたが、頭の中に言葉が流れ込んできました。
『メイドとしてここに来るお客様をもてなすのがあなたの役割です。ハートのパフェを作ってください』
（どこかで聞いた声？　……役割なら恥ずかしいけど頑張らなきゃな）

　なぜメイドなのかは謎ですが、幸いというべきか、彰尋は演劇に興味があり料理も得意です。
（持ち前の演技力と料理の腕でおもてなしをしよう。見る人がそんなに不自然に見えない様にはメイドとしてきちんと仕事をこなしたい）
　そう思ったとき。
「えっ、彰尋くん？」
　今度こそ聞き覚えのある声に振り向くと、そこに立っていたのは七夜あおいでした。
「やっぱり……どうしたのその恰好」
　あおいは笑いをこらえられなかったようです。
　一瞬固まった彰尋ですが、恥ずかしさをこらえて答えました
「気づいたらこうなってた……あおいさんも、お揃いだね」
「……えっ？」
　あおいは自分の服を見下ろし驚いた顔をしました。
「気づいてなかったんだ？」
「うん。……あ、笑っちゃってごめんね、つい」
　申し訳なさそうな顔になるあおいに、気にしてないよと笑顔を向けます。
「いいよ、俺だっておかしいと思うし」
　見られたくなかった姿ではありますが、あおいが一緒なのは嬉しいことでもありました。
「でも、似合ってるよ」
　そう言ってくれたあおいに苦笑して、
「あおいさんもよく似合ってるよ」
　と彰尋は答えるのでした。
「それじゃ、一緒にパフェ作ろうか」
　彰尋は手を洗い、あおいと共にハートのパフェを作り始めます。
　薄切りのハート型いちごとホワイトチョコをたくさん乗せたパフェです。ピンク色のクリームもたっぷりです。
「いちごの切り方と、盛り付けのバランスがポイントかな」
「さすが彰尋くん、手際がいいね」
「あおいさんもうまくなったよ」
　パフェを作りながら彰尋は、
（こういうのを一緒に食べられたらいいんだけどな）
　なんて心の中で考えたりもするのでした。

　無事に給仕を終え厨房を出ようとすると。
「彰尋くん、先に行ってて」
　あおいに言われ、首をひねりつつ彰尋は廊下で待っていました。
「お待たせ」
　あおいが背中に何か隠しながらやってきました。
　なんだろう？　と気になりつつ、彰尋はプレゼントを渡すことにしました。
「おつかれさま。これ、ホワイトデーのお返し。手作りのバームクーヘンなんだ」
　それは彰尋が心を込めて手作りしたものでした。
　小さいけれど丸い形のものと、巻かないタイプの一口サイズが幾つか入っています。
　告白の返事を待つ曖昧な期間にこめられる想いは『貴女の幸せがずっと続きますように』。
（美味しく出来たから喜んでくれたらいいな）　

「ありがとう！　嬉しいな。私からもお返しがあるの」
　あおいが背中から取り出したのは、先ほどのハートのパフェでした。
「さっき私が作ったのを、料理長にお願いしてもらってきたの」
「ありがとう、あおいさん。……よかったら、一緒に食べない？」
「いいの？　それじゃ、いただきます」
　あおいの笑みに、食べる前から彰尋の胸に甘酸っぱい思いが広がるのでした。