ハッピーバースデー！　３月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　３月☆

３月　９日：浅井幸太　（誕生日より早めにお祝いされました）

　その頃。羽生碧南もまた所要があり寝子高を訪れていた。
　紆余曲折ありつつも木天蓼大学への入学も決まり、準備で忙しくしていたがそれもだいぶ落ち着いてきた。４月からは大学の寮に移る為、今暮らしている寮の部屋はだいぶすっきりした。
（陸上部の練習を見ているのかな……）
　碧南は１、２年時の担任である浅井幸太に用事があった。彼は３月　２８日に誕生日を迎えるがその頃には既に卒業している。だから、少し早いけれどお祝いしたかったのだ。

　陸上部員が彼女に気付き、声をかける。
「こんにちは。浅井先生に御用ですか？」
「そうなんだけど、練習中でしょ？　邪魔しちゃ悪いから……」
　碧南はそう言って断り、見学してるから、と言って邪魔にならないように少し離れた。
　暫くの間練習を見ていると、幸太が職員室へ戻ろうとするのが見えた。
「あの、先生！」
「！　羽生、元気だったか？」
　幸太が笑って手を上げる。二人の身長差は１６センチあり、碧南の方が高い。幸太が少し苦笑したようにも、微笑ましく見たようにも見えたがあれはどっちだったのだろうか？
それはさておき、碧南には、幸太が教師として成長しているように見え、あの時よりも頼もしく見えた。それ故に、やはり、ほんのりと寂しさを覚える。
　職員室までの道すがら、最近の事を話しながら歩いていく。
　大学入学の準備で忙しい事、寮を引き払う為に準備をしている事。そして……。
（そういえば、去年の誕生日も……）
　ふと思いだした事にふたたびほんのりとした寂しさを覚えていると、自販機が見えた。碧南は幸太を振り返る。
「先生！　先生の好きなスポドリ、おごっときますねー！　……多分これが最後かな」
　その言葉に、幸太が僅かに寂しそうな眼差しになる。
「そっか。……羽生は卒業するんだよな」
「だから、これが最後かなって。ちょっと早いけれど、誕生日祝いにしたくて」
　碧南がスポドリのペットボトルを渡せば、幸太は「ありがとう」と小さく笑った。

　碧南が帰った後。幸太は彼女からもらったスポーツドリンクを見つめ……、少しだけ悲し気に笑う。
「そんな事言われたら、飲みづらいじゃないか」
　彼女の更なる成長と前途が明るい事を祈りながら、彼はしばしそのペットボトルを見つめるのだった。