ハッピーバースデー！　３月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　３月☆

３月　９日：雛鶴さゆり

　用事があり寝子高を訪れた椎井莉鳥は、ふと、なにげなく窓からグランドを見ていた。
　彼女は諸事情があり、４年間ここに通い……今年の４月からは手に職をつけようと薬剤師を目指すべく木天蓼大学薬学部に通う。
（あっ……）
　グランドでは陸上部が練習に励んでいる。その中にとある後輩の姿を見つけた莉鳥は先月の事を思い出し、表情を曇らせた。自然と足が早くなる。
（彼女は私のことをどう思って……）
　その時、悲鳴と共に僅かに鈍い音がした。我に返ると、若い女性教諭が尻もちをついている。
「！ごめんなさいっ」
　相手をよく見れば、彼女は雛鶴さゆりであった。
（そういえば、さゆり先生と初めて会ったのは去年だったわね）
　改めて謝罪すると、さゆりは苦笑して首を振る。
　そこから暫くの間、莉鳥とさゆりは他愛もない事を話していた。
　４月から薬学部に行く事を告げるとさゆりは「がんばってね」と応援してくれた。やはり、生徒の進路を聞くと応援したくなるようだ。
「そういえば、先生……、今日は少しうきうきしたような感じがするわ」
　ふとそんな気がして口にすれば、さゆりは僅かにはにかむ。
「私、実は今日が誕生日で……。少し浮かれていたかもしれません」
「そうなんですか？　おめでとうございます」
　莉鳥がそう言えば、さゆりの顔が僅かに綻ぶ。彼女は柔らかな目で「ありがとう、椎井さん」と微笑んだ。
　開いた窓からまだ冷たい風が入り込む。ふわりゆれた髪を押さえ微笑むさゆりは、先生と言うより同年代の生徒のように見えて。莉鳥は小さく微笑んだ。

　その帰り道、莉鳥は浅井幸太が背の高い女子生徒と何かを話しているのを見た。
　今は３月。自分のように用事を済ませるべく訪れる３年生も多いだろう。
「旅立ちの季節らしい光景、なのかもしれないわね」
　莉鳥はそんなことを呟いてその場を後にした。

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