ハッピーバースデー！　３月☆｜リアクション

ハッピーバースデー！　３月☆

３月　３日：京極花音

　この日は、花音の誕生日である。
　今まで彼は、自分の誕生日を意識した事があんまりなかった。というのも、彼の凛々しい外見からは想像しない『花音（かのん）』という名と桃の節句の生まれ……。この事で昔からさんざん揶揄われており、花音にとって誕生日なんてむしろマイナスイメージすら抱いていた。
　しかし、今年の彼は、少々そわそわしていた。
（静さんは、俺の誕生日を知らない筈だ。けど、もし、……なんかの関係で知って、お祝いの言葉をかけてくれたなら……）
　ふと想像してしまう。
　想い人である暁月静が花音に笑顔で「誕生日おめでとう」と言うその姿を。
　そうだったら、自分はどんな反応をするだろうか。嬉しくて一日中顔がにやけてしまうだろうか？　それとも、びっくりして顔をまっかにしてしまうだろうか？
　……なんて考えていると、花屋のオーナーから「京極くん、あぶないよ！」と声をかけられる。よく見れば、棘を取る前のバラを思い切り握り締めようとしていた。
（あぶねぇっ！？）
　慌てて手を緩め、彼はバラの棘を取る作業に専念することにした。

「はぁ……」
　オーナーから注意され、それ以降はどうにかそわそわを我慢しながらバイトに励めた花音は、「こんな日だし」と思い切って仕事帰りにケーキ屋へと足を運ぶ。ちょうど桃の節句という事もあり、ショーケースには華やかなケーキが並んでいた。
　少々気恥ずかしく思っていると、見覚えのある女性が花音に笑いかけていた。――見間違えるはずがない。想い人である静である。
「奇遇ですね。ここのケーキ、美味しくて時々自分へのご褒美に買いに来るんです。京極さんもですか？」
「えぇ、まぁ……。今日、誕生日なので」
　静に話しかけられ、自然と話してしまう花音。彼はそれに気づき、僅かに頬が強張るのを感じた。幾度となく知り合いなどからからかわれたからだろうか？　しかし静は優しく微笑んだだけだった。
「そうだったんですね？　お誕生日、おめでとうございます！」
「ありがとう、ございます」
「ふふっ、だったら、これをプレゼントしますね」
　そう言って手渡したのは、そのケーキ屋で売られているクッキーだった。おやつ用に買った物だったらしいが、静は微笑むだけである。
「いいんですか？　これって……」
「また買えばいいんですもの。今日は京極さんのお誕生日ですし」
　そう言って彼女はもう一度微笑んでから店を出る。また花屋さんに行きます、と付け加えて。
（……可愛かった）
　花音は、静の笑顔を思い出して頬を赤く染める。
　図らずとも、想い人から誕生日を祝ってもらえた。たった一言とその時に見えた笑顔に、心臓を鷲掴みにされたような痛みが走る。
「可愛いな……」
　高鳴る胸を押さえながら、花音は小さく微笑んだ。

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