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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
Waiting for a Shooting Star
太陽が沈みはじめるころ、上陸した桟橋に戻った。巡回路を戻ってきたフェリーに手を振る。
船が動き出したときにはすでに、頭上は満天の星空だった。
デッキチェアに座り肩を寄せ合うようにして見上げる。街の夜空にはない無数の星だった。天鵞絨（ビロード）の布にダイヤモンドの粒を散らしたかのようである。手を伸ばせば届きそうなほどに鮮明だ。
「あまりにきらびやかで」珪は感嘆の声をもらした。「言葉が出ないね」
「はい。こんなにたくさんの星を見るのは初めてです」
不思議だ。ほんの少し寝子島を離れるだけで、夜空はこんなに様相を変えるものなのか。
夜風が心地いい。フェリーは静かに黒い波をかきわけていく。
「卒業したら、珪さんの気持ち、聞かせてくださいね」
綾花はそっと告げた。声には期待と不安が入り混じっていた。気持ちを抑えるのもそろそろ限界だ。できるならばいますぐ珪の胸に飛びこみ、彼に抱きしめてもらいたかった。でも綾花は、まだその時ではないと感じていた。
本当はすぐにでも私の気持ちを伝えたい、けど――。
綾花の心にはもどかしさがあったが、卒業までの短い日々を待つことに決めていた。
珪はなにか答えようとしたのかもしれない。しかし彼が綾花を見たそのとき、
「あっ」
綾花は小さく声を上げた。
きらっと流れ星が空を横切ったのだ。まるで銀の糸を引くように、一筋の光を描いて消えた。夜空を切り裂くように鮮やかで、短くも儚い光景だった。
「見ました？ 流れ星でした」
「見たよ。綾辻さんの瞳に映ったからね」
「ふふっ」
綾花は口を押さえる。
「キザすぎたかな？」
「いいえ、ロマンティックで素敵です。珪さんが私の瞳、見つめてくれたことが嬉しいんです」
珪は頭をかいた。「それはどうも」と照れ隠しのように言う。
「ほらまた」
珪が空に指をむけた。彼の指先、夜空の高みに閃光のような光が走った。最初の流れ星が流れたあたりに、また別の流れ星が生まれたのだ。しかもこれが消えるや否や、次の光があとを追いかけるようにつづく。
「またあそこにも」
珪の声には抑えきれない興奮と感動が混じっていた。光の粒が次々と弧を描き、夜の静寂を鮮やかにいろどる。まるで空全体が星の祭典の舞台となり、その中心にふたりがいるかのようだ。流星群はまるで時間を忘れさせる魔法のように現れては消えていく。夢の中でも見たことのないような、現実を超えた美しさだった。
「こんなにたくさんの流れ星、見たことがないです……」
「この夜空を一緒に見られたこと、きっと僕は忘れないだろうな」
頭上にひろがる無限の宇宙、その一部となったかのような光のショーだ。幻想的な光景に包まれながら、綾花は珪に永遠の絆を感じていた。
「そうだ。流れ星といえば、なにか願いごとでもしてみるかい？」
「幸せすぎて願いごとがないです」困ったような笑顔で綾花は答える。「もし珪さんの願いごとがあれば、それが叶うように願いたいです」
「僕の願いごとかい？」
願をかけているのだろうか。珪はしばらく黙って星空を見上げていた。やがて彼は、うっすらと笑みを浮かべ口を開いたのだ。
「いまは秘密にしておこうか。永遠に隠しておくわけじゃないよ。少なくとも、三月が終わるまではね」
三月が終わるまでは。
それって、私が高校生でなくなるのを待つ――という意味ですか？
問いかけたい。でも、実際に問うのをためらう。
けれど綾花は不安ではなかった。思い出している。
未来を願ってそれぞれ育てた花が同じように、ふたりで過ごす幸せな未来を映したこと、ありましたよね。
嬉しく恥ずかしく、しかも心がほわんと温かくなるような記憶だ。
行く先に灯りが見えてきた。寝子島だ。
「今日は楽しかったです。次はグランピングとか行ってみたいですね。日帰りじゃないですよ」
綾花は珪の腕に頭をあずける。わずかな間を置いて、珪も綾花の肩に手を置いた。
「グランピングか……」
と言ったきり珪は口をつぐんだ。
その日の訪れを楽しみに思っているのだろうか。
すでに計画を考えているのかもしれない。
ひょっとしたら、断る口実に頭を悩ませているのかも。
でも、あえて訊くまいと綾花は決めた。
だって珪さんとわかちあう夜空は、こんなにまぶしく煌（きら）めいているんですから。
未来は明るい、そう綾花は確信している。
『Waiting for a Shooting Star』 ――了
船が動き出したときにはすでに、頭上は満天の星空だった。
デッキチェアに座り肩を寄せ合うようにして見上げる。街の夜空にはない無数の星だった。天鵞絨（ビロード）の布にダイヤモンドの粒を散らしたかのようである。手を伸ばせば届きそうなほどに鮮明だ。
「あまりにきらびやかで」珪は感嘆の声をもらした。「言葉が出ないね」
「はい。こんなにたくさんの星を見るのは初めてです」
不思議だ。ほんの少し寝子島を離れるだけで、夜空はこんなに様相を変えるものなのか。
夜風が心地いい。フェリーは静かに黒い波をかきわけていく。
「卒業したら、珪さんの気持ち、聞かせてくださいね」
綾花はそっと告げた。声には期待と不安が入り混じっていた。気持ちを抑えるのもそろそろ限界だ。できるならばいますぐ珪の胸に飛びこみ、彼に抱きしめてもらいたかった。でも綾花は、まだその時ではないと感じていた。
本当はすぐにでも私の気持ちを伝えたい、けど――。
綾花の心にはもどかしさがあったが、卒業までの短い日々を待つことに決めていた。
珪はなにか答えようとしたのかもしれない。しかし彼が綾花を見たそのとき、
「あっ」
綾花は小さく声を上げた。
きらっと流れ星が空を横切ったのだ。まるで銀の糸を引くように、一筋の光を描いて消えた。夜空を切り裂くように鮮やかで、短くも儚い光景だった。
「見ました？ 流れ星でした」
「見たよ。綾辻さんの瞳に映ったからね」
「ふふっ」
綾花は口を押さえる。
「キザすぎたかな？」
「いいえ、ロマンティックで素敵です。珪さんが私の瞳、見つめてくれたことが嬉しいんです」
珪は頭をかいた。「それはどうも」と照れ隠しのように言う。
「ほらまた」
珪が空に指をむけた。彼の指先、夜空の高みに閃光のような光が走った。最初の流れ星が流れたあたりに、また別の流れ星が生まれたのだ。しかもこれが消えるや否や、次の光があとを追いかけるようにつづく。
「またあそこにも」
珪の声には抑えきれない興奮と感動が混じっていた。光の粒が次々と弧を描き、夜の静寂を鮮やかにいろどる。まるで空全体が星の祭典の舞台となり、その中心にふたりがいるかのようだ。流星群はまるで時間を忘れさせる魔法のように現れては消えていく。夢の中でも見たことのないような、現実を超えた美しさだった。
「こんなにたくさんの流れ星、見たことがないです……」
「この夜空を一緒に見られたこと、きっと僕は忘れないだろうな」
頭上にひろがる無限の宇宙、その一部となったかのような光のショーだ。幻想的な光景に包まれながら、綾花は珪に永遠の絆を感じていた。
「そうだ。流れ星といえば、なにか願いごとでもしてみるかい？」
「幸せすぎて願いごとがないです」困ったような笑顔で綾花は答える。「もし珪さんの願いごとがあれば、それが叶うように願いたいです」
「僕の願いごとかい？」
願をかけているのだろうか。珪はしばらく黙って星空を見上げていた。やがて彼は、うっすらと笑みを浮かべ口を開いたのだ。
「いまは秘密にしておこうか。永遠に隠しておくわけじゃないよ。少なくとも、三月が終わるまではね」
三月が終わるまでは。
それって、私が高校生でなくなるのを待つ――という意味ですか？
問いかけたい。でも、実際に問うのをためらう。
けれど綾花は不安ではなかった。思い出している。
未来を願ってそれぞれ育てた花が同じように、ふたりで過ごす幸せな未来を映したこと、ありましたよね。
嬉しく恥ずかしく、しかも心がほわんと温かくなるような記憶だ。
行く先に灯りが見えてきた。寝子島だ。
「今日は楽しかったです。次はグランピングとか行ってみたいですね。日帰りじゃないですよ」
綾花は珪の腕に頭をあずける。わずかな間を置いて、珪も綾花の肩に手を置いた。
「グランピングか……」
と言ったきり珪は口をつぐんだ。
その日の訪れを楽しみに思っているのだろうか。
すでに計画を考えているのかもしれない。
ひょっとしたら、断る口実に頭を悩ませているのかも。
でも、あえて訊くまいと綾花は決めた。
だって珪さんとわかちあう夜空は、こんなにまぶしく煌（きら）めいているんですから。
未来は明るい、そう綾花は確信している。
『Waiting for a Shooting Star』 ――了
あとがき
担当マスター：
桂木京介
ファンレターはマスターページから！
桂木京介です。
本作はプライベートシナリオですので、あとがきはボーナストラック扱いで文字制限ギリギリまで書いています。
あくまで『おまけ』の域を出ませんが、綾花様のためにだけ書いた裏話を含む内容です。楽しんでいただければ幸いです。
本作はプライベートシナリオですので、あとがきはボーナストラック扱いで文字制限ギリギリまで書いています。
あくまで『おまけ』の域を出ませんが、綾花様のためにだけ書いた裏話を含む内容です。楽しんでいただければ幸いです。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年05月16日
- 参加申し込みの期限
-
- 2024年05月23日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年05月23日 11時00分
