恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　　【拝啓　大好きなお父ちゃんへ】

　夢を見た。
　それは、いつも母親の語る父親の姿。
　それが父親だったならいいなぁ、直風満帆は常そんな事を常思っていた。

　そして朝──側に置かれた椅子には、膝を組んで英新聞を優雅にめくりながら、にっこりと微笑む、夢の中の満帆の父親の姿が──
　「…んっ…あ…お父ちゃん。おはよ…う？
　ぇ…えええ～っ！？　そんな…うち小さい時に死んだて…え？　て事は…うちいつの間に死んだん～～！？」
　大混乱する満帆の側に、優雅に新聞を畳んで傍まで来た彼がそっと満帆の頬を撫でた。
　「死んで無いよ、大丈夫」
　「お父ちゃん……」
　自分と同じ髪、同じ青色の瞳に、満帆は思わず頬が熱くなるのを感じていた。

　「じ、事情は分かったけれども──それが夢に出てくるて事は、うちは…ファザ…コン…と…」
　満帆が俯きつつ、背中にどんよりと黒い影を落とす。その背中を優しく撫でてあげる彼女の父親の姿。
　「ま…まあそんな事で落ち込んでても、時間がもったいないだけやんな！
こんな事は二度と無いやろし…
　名前もないんやったな。なら『牧瀬ジョージ』って名乗ってや！　うちは、お父ちゃん呼び一択や！」
　色々と決め始めると気分の高揚は収まるところを知らない。胸を高鳴らせながら満帆は宣言した。
　「こんな事は二度と無いやろし…お父ちゃん！　今日一日デートしよっ！」
　「デート…？　そうだね。こんなにいい天気だし、満帆と一緒なら大歓迎だよ」

　シーサイドタウンでは、少し不思議な事が起こっていた。
　休日のでは込み合っているのが普通だが、ジョージが通ろうとしているところだけ、静かに道が開けられるのだ。
　その為、手を繋いでいる満帆共々歩くのには苦労しない。
　佇まい、歩き方、どれをとっても優雅といっても過言ではないジョージの姿に、雑多に歩いてぶつかるのを人は明確に拒否したのだ。
　その代わり、集まる人々の視線の数々。
　「困ったね」
　ジョージは言葉通り恥ずかしそうに困った様子で微笑んだが、一緒にいる満帆にはそれがとても誇らしかった。

　「じゃーん！お弁当作ってきたで～！」
　「満帆の手作りかい？」
　「そうや！　急やったからサンドイッチやけど…」
　「それでも、愛情を込めてくれた手作りには違いないよ。ありがとう、満帆」
　海浜公園の海がすぐ傍で見えるベンチでの昼食。
　せっかくの父親の姿に甘えて、満帆はころんと、ベンチの上で膝枕をしてもらう。
　ふわりと、遠くから流れる潮風が二人を包んでは心地よくすり抜けて行く。
　「ん…ええ風やね…」
　満帆が呟くと、ジョージはそっと満帆の髪を撫でて微笑み掛けた。
　「お休み、僕の可愛い満帆」

　夕方の展望台で、二人で写真を撮る。
　鮮やかな夕焼けを背に、それでもはっきりと写っている父親の姿に感動をしながら、ジョージに向かって写真を向けた。
　「これが今住んでる街やねんで。ええ街やろ？」
　「綺麗だね。優しくて温かくて……
　良かった……こんな街に住んでいるなら、きっとさぞ幸せなんだろうね。安心したよ」
　感極まった様子で、ジョージが小さく口にした。
　満帆が嬉しそうにその腕に寄り添おうとして──
　「あれ？お父ちゃん…体が透けて…
　そっか…もう時間なんやね…」
　ジョージは寂しそうに微笑んで。無言で満帆の髪を柔らかく梳くように撫でた。
　「今日はありがとう。
　たとえ幻でも…会えて…すごく嬉しかったわ」

　それが、彼に聞こえた彼女の涙ぐんだ最後の言葉。
　それでも、満帆が泣かなかったのは笑顔で最後は見送ろうと決めたから。

　何故なら。最後に見た彼の姿も、幸せそうに微笑んでいる姿だったから。　