恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　　【せめて思い出だけでも残せれば。それは、彼女の存在していた価値になるから】

　午前３時、日が出るにはまだ早い時間帯。
　日課のジョギングの為に起きた冴木竜司は、隣に銀の色をした髪が流れている事に気がついた。
　「ん？　なんだこり…ゃ……！　つくしちゃん！」
　その叫びに、ゆっくりと隣で眠っていた思い切り名を叫んだ幼馴染とそっくりな少女が目を覚ます。深い蒼の瞳に儚げな体躯……
　(やばい、俺ついに中３の少女に手を出してしまったか……！)と、竜司が内心焦りながら思い切り叫び掛けたのは秘密だ。叫んだが最後、そうでなくても、自分の場合前科がついてしまいそうで恐怖に慄いた。
　“YES！ロリコン・No！タッチ”を心の魔法にしている彼にとってはそれは言語道断なのだ。その様な事、絶対にあってはならない。

　「ど、どうしてつくしちゃんがこんな所に──」
　「それは──」

　「なるほど、理想の女の子……それでつくしちゃんにしては幼げでロリ巨乳というまゆ先生の部分を──結婚して下さい！！」
　「お断り致します」
　「どいひー！？　(ひどい！)」
　こんな光速、プール開きの時以来だぜ……両手を床に着きながら、竜司はそんな事を思いつつぽたぽたとく遺恨の涙を流す。
　傍らではその肩をぽむぽむと優しく叩く喚び出された彼女の姿……
　しかし…まゆ先生という愛する女性が居ながら、初恋の子を未だ想い続けてる事がわかってしまって…地味にショックだ……

　「まあ、落ち込んでいても仕方しかたない！　一日限りか。今日はランニングじゃなくて散歩にしよう。日が上がる前からめいいっぱい楽しもうぜ！」

　こうして朝の日課は散歩になった。丘沿いのランニングコースの道路からは他に遮る物の無い赤に、色混ざりのしない群青が滲んだ光景が広がっている。
　「そういえば、名前がないんだっけ？」
　「はい。わたしに名前は……」
　「それじゃあ、名前はゆま。苗字は筑紫で『筑紫ゆま』でどうだっ？」
　水泳の担当“まゆ”先生と、初恋の女の子“つくし”から取った名前だったが、もじりはしたがそのまま過ぎただろうかと焦る竜司に、
　「ええ、いいと、思います」
　ゆまは、心から嬉しそうに微笑んで見せたのだった。

　「違う違うっ！　ゆまちゃんは今時のプリクラの捏造に負けないくらい可愛いアピールが出来るはずなんだ！」
　等とプリクラで恥ずかしそうなゆまの写真を取りつつも、きちんと二人撮りする事も忘れない。
　……もちろん、竜司と一緒に撮ったゆまの写真の方が圧倒的に可愛く撮れていた事は言うまでも無かったが。

　昼食は喫茶店のテラス席で、いちごパフェをごちそうしてみた。ゆまの美味しそうながらも黙々と食べるその姿にハートを射止められた竜司にとって、財布の中身は、スカスカから空っぽになろうとも大した問題ではないと思えた。
　
　食事後の小休憩で、公園のベンチに腰掛けながら。
　「……ああ、何か一日だけっていうのも分かる気がするわ」
　ゆまが不思議そうに竜司を見つめる。竜司は何も言わずにニャルキーを一つゆまに渡して、その頭を優しく撫でた。
　「いやっ、何でもないっ！　次はレッツ・水族館！」

　水族館を一巡りして、最後には、また同じ公園へ戻ってきた。
　赤い夕暮れ時。うっすらと彼女の体が透け始めていたのは知っていたけれども。

　それを彼女には告げずに、「今生の願いです！　膝枕して下さい！！」と願い倒して。
　仰向けにしてみる彼女はとても眠そうにしていたけれど。それでも、問い掛けずにはいられなかった。

　「俺は……君に、幸せな思い出を残せたかな？」

　消えいく彼女に言葉は無い。
　それでもゆまは。消える直前、最後に、竜司に満面の微笑を向けたのだった。
　