恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　　【初恋はあなたでした】

　「ん……眠い……こら相棒、顔に寝るな……」
　「きゃ…っ」
　「ん？」
　顔を上げると、うなじの綺麗な女性の茶色の髪が見えた。
　こんなところに女性がいるはずかない。しかし、そう言えば、掴んでいる愛犬ジョニーの体が毛むくじゃらじゃない。
　そこにあったのは、ふわりとしたボブカットの髪。眼鏡で歳は２０代の年上だろうか。
　そして……愛犬の代わりに掴んでいたのは柔らかい彼女のおっぱい……
　しかし、おっとり系の彼女は怒らず、柔らかく微笑んだその唇で、たどたどしく口にした。
　「メイソン……？」

　──その瞬間、少年は恋に落ちた。

　それからのメイソン・ブリッジスの行動は早かった。あれだけ愛犬、相棒と連れ合ってきた犬のジョニーを容赦なくケージに閉じ込め、あっという間に二人だけの空間を作り上げてしまった。
　ほんやりとして出てきた彼女は裸Yシャツの他に服を持っていなかったから、メイソンは衣類という衣類を引っ張り出して、白のタートルネックを取り出した。丈が余り胸が強調され過ぎるが、背に腹は代えられない。
　その間に、色々聞いた。名前が無い事、一日限りの存在である事。名前は即座に“スミカ”と付けたが、この胸のときめきを与えてくれた一日で消えてしまう事が無性に悲しくて、虚しくて。
　メイソンは彼女共々、即着替えをして外へと飛び出した。もちろん、愛犬ジョニーに餌は与えられてもいない……

　外は僅かに雲が散った程度の快晴だった。
　朝食すら食べていない。側のレストランで、適当に飲み物とパンケーキと、これから熱くなる先取りとしてトロピカルジュースが置かれていたので、それもセットで頼んでみた。
　「くすっ……。メイソン、あ～ん」
　小さく楽しげに微笑んで、スミカがホットケーキを小さく切って蜜をたっぷり絡ませてその口元に運ぶ。
　メイソンも最初は真っ赤になりながらも、口を小さく開けてスミカのフォークを受け入れる。それから、ストローが２本刺さったトロピカルジュースを二人で同時に飲んでみた。
　「ふふっ…こんなに幸せで楽しいのは初めて」
　「ス、スミカ…口についている」
　先ほど食べたホットケーキのシロップを、メイソンが勇気を出してぺろりとなめ取る。
　「あ……」
　スミカは真っ赤になりながら、恥ずかしそうに俯いた。メイソンも己の行動に恥ずかしそうに俯いた。

　「…………！」
　夕方に帰宅して、玄関のドアを閉めた瞬間。メイソンの中で何かが弾けるのを感じた。
　耐え難い衝動に任せて、スミカの抱き寄せそのまま壁に押し付けて、ロマンティックも何も無い、ただ衝動のままのキスをする。
　しかし──スミカは、驚きこそすれ何も言わずに微笑んでいてくれたから。
　メイソンはそのまま、スミカの柔らかい体を強く抱き締めて何度も深く口付けを交わした。

　「ごめん…何時もはこんなんじゃ無いんだ…今のは本当につい…」　
　我ながら、こんなに説得力の無い言葉は初めてだとメイソンは小さく呟いた。

　夕方の色香がまだ残っている。
　夕食も食べずに、二人は何をするでもなくただ抱き締め合っていたくて、早めの床に就いた。
　朝起きたように、彼女の胸に顔を埋めて眠る。それは何という幸せの時間。

　そして、日付の時間をまたぐ頃。
　「……………」
　起きた隣に──彼女がいない。それはもう分かっていた事だから。
　無言で愛犬のジョニーをケージから出してあげる。
　「悪かったな相棒、夕飯待ってたろ？今作るからさ……」
　
　愛犬の返事は、メイソンの足首への向けての、情熱的な怒りに溢れる熱い歯型だった……

このページにイラストを設定する