恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　　　【私の心は貴方の剣に】

　その夢の中、御剣刀はウハウハだった。あの子やあの子の可愛らしいスクール水着ではないプライベートな水着姿。
　寝子島海岸では何故か他には人はいなくて貸し切り状態。
　途中から夢だと気付いて、いやこれはやり過ぎだろうと自分を諫めつつもまんざらでは無い様子。

　しかし、その人垣の外遥か遠くに、一人だけ浜辺で立ってこちらを見ている少女に気がついた。
　──少女は一人袴で、そしてその背から木刀を抜き構える。
　他でもない──刀に向かって。

　「──誰だ！！」
　枕元に気配がする。刀は条件反射で枕元の木刀を振るい──止められた。その勢い故に心地良い音などしない。硬質の磨かれた木々がぶつかり合う固く鋭い打撃音。
　「おはよう、刀君」
　受け止められたその先から声が上がる。
　慌てて振り返れば、そこには一人の女の子がいた。

　茶色の髪に黒い瞳、少し小柄でグラマラスな体型。
　厳しいけれど優しい凛とした雰囲気。
　寝子高の冬の制服をきっちりと着ている。
　いつも一緒にいる女の子達が混ざったら丁度こんな感じになるのだろうか。

　「君は、誰だ」
　「私は──」

　話を聞いてガックリと肩を落とす。
　また、神魂かよ……！　刀にとって神魂の効果等に、夢も希望もありはしない。
　「話は分かった。けれども、いや今は剣術を頑張りたいし、幾ら理想だとしても恋人は要らない」
　「剣術ならば、腕に覚えがあるわ」
　剣が使える……？　そういえば、先ほどの条件反射で放った一撃は無意識だったから、むしろ避けて貰わないと困るレベルの一撃だった様な気がする。
　あれが避けられるのならば腕はそこそこなのだろう。軽く打ち込むには丁度良い相手かも知れない。
　自分も彼女に合わせて制服を着替えて外へ出る。
　「そういえば、名前は？」
　「ないわ」
　流石は、ののこの神魂クオリティだ。名前位作った時に付けてやれよとも思ったが、
　「それじゃあ、『絢』で」
　思いついた名前を、そのまま付けた。

　到着した寝子島神社で軽く打ち合わせる。
　頭上で軽く打ち合わせて受け流す音が戯れている様で心地良い。
　しかし──
　「…………！？」
　少しずつ、少しずつ……打ち合わせの高度が下がるにつれて、高らかに響いていた木刀の音が固く重くなってくる。
　思わず、足が一歩下がった。怪我では済まない事も侭ある為、気こそ抜いていないが、相手の技量に合わせて…等と考えていたのが、その一歩で一気に羞恥心としてのし掛かる。
　「弱い。馬鹿にしているの？」
　「…………」
　ろっこんではない、頭の中のなにかを切り替える。
　今まで、人は大した事は無いと思っていた。どれも結果は半ば一瞬で決まっているものばかりだったから。
　それを、切り替える。今まで培ってきた人を死に至りしめかねない全ての技術をもって、打ち掛ける。
　突けば、相手は当たり所構わず大怪我では済まないだろう。愚かに頭上を狙えば、がら空きの胴を狙われ、防ぎ損ねればあばら骨が何本も折れるだろう。

　……だが、そんなもの。実行し尽して、とっくのとうに、捌かれている。

　「…………」
　こちらも、自分より僅かに軽く、しかしそれ以上に早い剣戟を捌く。その隙を縫い攻撃に転じるが、直ぐに均衡状態だ。
　それを休憩を挟んで、何時間も繰り返した。
　朝から、夕暮れ時まで……刀は初めて時間の経つ早さを感じた。

　「楽しかったよ、ありがとう」
　目の前で霞みかけた、絢に向かって挨拶をする。
　……その時、刀は目にした。
　今まで一度も笑わなかった絢が──嬉しそうに、刀に微笑みかけた事に。

　塵芥さえ残さない消え様に、刀の足が手が、彼女のいたところへと伸ばされた。
　もう、彼女はいない。全力を、出せる相手がもういない──

　「参ったな、本当に参った……絢」

　答える相手も、既にいない──刀の言葉は、その場の夕闇に溶けるように消えていった。

このページにイラストを設定する