恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　　【ありがとう、なな】

　「優しくて、爽やかで…黒髪で、青みを僅かに帯びた黒色の瞳をした和服の良く似合う男性でしょうか……」

　インタビューを受ける不思議な夢を見た。天満七星にとっては、支離滅裂過ぎてすぐに忘れてしまった夢であったが。
　身支度を整えて、居間の食卓へ。
　「おはようございます、お父様、お母様」
　そこまでは、いつもどおりの日常。ただ少し風変わりだったのが、

　「おはよう、なな」

　その隣で微笑みかける、夢でインタビューを受けた通りの和服を着た“彼”の姿が。
　しかし、父は気にせず、母も気に留める事無く食事の準備をしている。
　違和感がまるで無い。ここで違和感を持つ事の方がおかしい位だ。
　だから、七星も、
　(そういえばいましたっけ)と、あっさりその光景を許容した。
　「おはようございますわ、ヒトセ様」
　この環境を作るまでにヒトセと呼ばれた存在が両親にどんな説得をしたのかは知らない。
　しかし、一朝にして家人が一人自然に増えた不自然な食卓であっても、とても自然に時間は流れていった。

　「天気がよろしゅうございますわね、ヒトセ様」
　散歩として旧市街を歩く。並んで歩いて顔を伺えば、そんな事をしなくても無言で彼が笑顔を返してくれている。
　心を許して歩ける殿方がこんなに近くにいるなんて、七星の胸は幸せと共に僅かに高鳴った。

　その時、ヒトセがふと何かを見つけた様に足を止めた。
　「なな、ちょっとこちらに寄っていかないかい？」
　「天然石のお店ですの？　少し意外ですわ。ヒトセ様がこういったものに興味をもたれるなんて」
　「ああ、いや。……少し気になるものを見つけてね」
　そう言って、七星を伴いヒトセが店に足を踏み入れる。
　しばらくして、ヒトセは一組のアクセサリーを用意してこちらへ戻ってきた。
　「ヒトセ様、それは……」
　「似合うかどうかは分からないけれども……ななに、プレゼントだよ」
　少し困ったように、照れくさそうに微笑んだ彼の手には、アメジストの天然石が埋め込まれた、星型の装飾銀であしらえられたドロップイヤリングだった。
　「ヒトセ様……私は」
　七星がアクセサリーの類をつけることは稀。しかし、ヒトセからもらった耳飾りはとても綺麗で……
　「もらってくれるだけでいい。気が向いたときで良いから思い出してつけてくれれば……」

　「今つけますわっ！　見ていてくださいませっ」
　慌てた様子で耳飾りを身に着けようとするが、どうも上手くいかない。その手をそっと支えたのが、
　「ヒトセ様……」
　耳の辺りがくすぐったい。七星は真っ赤になりながら言葉をなくして俯いた。

　鏡を覗けば綺麗な耳飾りがきらりと光る。ついている石の紫と上品な銀が相まって、それはすぐに持ち主に馴染んだ。
　「似合っているよ。なな」
　笑顔で紡がれるヒトセのその一言で、七星は自分でも頬が紅色に染まっているのが分かった。

　旧市街の端。ここで、お散歩は終了。空は綺麗な夕暮れ時。
　『なな、今日はたのしかったかい？』
　……そこで七星は初めて気がついた。
　初めて、もっと一緒にいたいと──
　「ヒトセ様、私はあなたにまだお礼をしていませんわ……」
　「君が喜んでくれた、それで充分だよ」
　彼が初めて、満面の笑みで答えて見せた。
　七星を心配させないように。

　「………」
　七星からの、全てのお礼とありったけの想いを込めて。瞳を閉じて触れるだけの口付けをした。
　目を開けたら、もう終わっているのは分かっていたから。

　開いたままの瞳から、七星の頬を雫が伝った。
　またいつか、またいつか、あなたに会えたら…今度は消えないで欲しいと願いを掛けて、受け取った耳飾りに手を触れた。

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