恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　　【今、我が心の中の「愛」に問う】

　今日は彼女と勉強をする夢を見た。
　日に日に思いは募るけれども、ただ傍にいる、ただ彼女が笑っている、それだけで幸せだった。
　だから、今日見た夢もきっと幸せだったのだろう。

　──そんな夢を見た。
　「修君」
　「君は！？」
　「そうだ、ごめんね。説明しなきゃいけないよね……」
　もじもじと、やはり少し恥ずかしそうにしながらも、しばらく困った様子を見せてから、“七夜あおいの姿をした彼女”が、とつとつと説明を始めた
　──が、

　「きゃっ！」
　「ああ、済まない驚かすつもりはなかったんだ…！　ただ……」
　八神修は気がつけばベッドから起き上がり、傍のテーブルを力一杯叩いていた。
　神魂とはいえ、今回の騒動は存在を弄び過ぎてはいないかと。驚いたあおいの姿をした少女を宥めながらも、僅かな怒りが隠せない。
　しかし、この島ではよくある話。修はそう内心片付けて、……やはり、釈然としなかった。

　今日一日で消える存在──修はこっそりとあおいにそっくりな少女の姿を覗き見る。
　「修君、どうかしたの？」
　それなのに、どうしてそんなに笑っていられるのだろう。
　思わずつられて、こちらまで微笑みたくなる、幸せになれる笑顔。

　「ああ、いや。何でも、無い。
　名前が無い、んだったな。だったら、元の主から『お』を抜いて『あい』にしよう。
　あい、何かしたい事はないか？」
　その笑顔に、思わずこちらまで心が温かくなる。１日だけだったなら、願いは何でも叶えよう。
　「修君が、したいことだったら何でもいいよ」
　「それじゃ、俺の気が済まな……」
　「私、修君の傍にいられるだけで幸せだよ」

　──それは、そういう風に作られただけだから──

　「……。
　カーキー…子犬の名前なんだが、これから散歩に連れて行こうと思う。一緒に行こう。
　それから、飼っている子猫と戯れて、お昼は──」
　「お昼のご飯は…うん、修君が言ってくれれば何でも作るよ。修君さえ良かったら材料を買いにいきたいな」
　「そうだな。昼食と夕食は是非一緒に作ろう」
　いつの間にか、楽しく会話をしていた自分に気付く。修は、一眼レフのカメラを用意して、愛犬とあいを連れて外に出た。

　写真に１シーン、１シーンを大切に、大切に切り取っていく。
　買い物籠を持って必死に食材を選ぶあいのシーンまでを取って、店員から変な目で見られても気にしない。
　しかし、寮に戻って猫に好かれるあまり子猫達に押し潰された修の写真を取ったのは、楽しげに微笑を浮かべたあいであったけれども。
　

　時計が０時を示す時。
　霞み始めたあいを修は静かに抱き締めていた。
　止まらない涙の行方をあいに向けて、ただひたすらに涙を零して。
　
　「修君、泣かないで。　──ほら？　私、幸せだよ。
　ね、幸せだから、泣かないで」
　既にあるのは霞みきった姿。それでも修はあいを離そうとはしなかった。
　──修は……物心ついてから初めて神に祈った。
　たった１日の命に何か、何か、どうか救いを。

　それでも。運命は無慈悲で残酷で静かであると──知るまでにそう時間は掛からなかった。

　柔らかくて軽い音、同時に散ったきらきらと輝く光の残滓を、止まらない涙のままに抱き締めそっと修は両膝をついた。
　欺瞞かも知れなくても…俺の中に戻れとでも言うかのように。

　「………………」
　彼女は、あいは精一杯生きた。この存在を目の当たりにして、元となった彼女を想う。
　1日だけの精一杯を目にして尚、俺は告白しないまま。
　ずっとこのままで後悔しないのか。あの存在を目の当たりにして……己の中のあい(愛)に問う。

　瞼を拭い、正面を向いた。
　その顔に、もう迷いは存在していなかった。

　