恋人創ろうぜ！！｜リアクション

恋人創ろうぜ！！

　【ブラザーイズマイン】

　お兄様はとても忙しい方だから。
　だから、会えないのは仕方ないとずっとずっと思っていたの。
　だからかしら、今日もお兄様の夢を見たわ。
　私は、それだけで幸せで。……それでいて、少し寂しい。

　零れる一筋の涙で目を覚ました。
　軽く目を擦るように拭き取り、着替えをして。その時、チャイムの音がした。
　「ここに、こんなに時間に来客なんて珍しいわ。どんな人かしら…」
　ドアを確認すれば、見間違えるはずも無い。そこには夢にまで見た自分にそっくりの兄の姿が……
　「お兄様！？」
　勢い良くドアを開ける。
　「お兄様っ、会いたかった！」
　「え？　いや、僕は……」
　「会いに来てくれたのねっ！　この時間では朝食もまだでしょうっ？　腕によりを掛けるわ。ああ、これは、きっとずっと良い子にしていたご褒美ねっ！」
　急き立てる様に話す少女ロザリー・マルリアーヴは、嬉しさの余り、兄だと疑わない存在に幸せそうに抱きついた。
　「そうだわっ、急いで朝食！　お兄様、引っ越したばかりだけれど寝子島のことは覚えてきたわ、是非案内するわねっ。さあ、お入りになってっ」
　促されるままに中に入って椅子に腰を掛ければ、即座に暖かなスープとパンが出てきた。
　一見美味しそうだが、圧倒的な調理時間の短さが気になる。「お兄様に昨日の残り物なんて出せない！」と叫んでいたから残り物で無いのは確かなのだが……
　「ええ、良く出来たわっ。お兄様も、お味は如何？　ど、どこかおかしかったりしない…？」
　もじもじとしてみせるロザリーに兄と認識されたと、やっと理解した“彼”は、嬉しそうに微笑んだ。
　「ああ、美味しいよ。ロザリー」

　「お兄様、自分のお名前も忘れてしまったの？　お兄様はオーギュストでしょう？」
　「オーギュスト……そうだったね。どうも一時的に記憶が混乱しているみたいでね。それでも、ロザリーの名前を覚えていられたのは幸いだったよ」
　星ヶ丘でのレストランで、オーギュストが微笑む。それだけでロザリーは幸せだった。
　その時にたった１日だけの逢瀬だと知ったとしても。
　
　オーギュストと、手を繋いで水族館で幻想的な時間を過ごした。ロザリーには、それが永久に続けば良いと思った。
　オーギュストと、観覧車に乗って幸せな時間を過ごした。頂点で観覧車が止まってしまえば良いと思った。
　帰りは、新作のロリータ服を選んで幾つか購入。家に戻ってちょっとしたファッションショーを開いて見せた。
　「…とても良く似合っているよ、ロザリー」
　そんな、本当に幸せそうな顔をして微笑むから。そんなに優しい顔で声を掛けてくれるから。
　ロザリーは今まで誰にも見せた事の無い笑みで、“兄”に向かって幸せそうに微笑んで見せた。

　お休みなさい、は同じお部屋で同じベッドで。
　同じベッドはいくららロザリーでも、少し我侭だっただろうかと思いながらも、今は少しも離れたくは無かったから。
　「おやすみなさい、お兄様……」
　「お休み、ロザリー……どうか、良い夢を……」
　そう言って、オーギュストはロザリーの額に軽くキスをした。

　「お兄様、おはよ…あら？　帰っちゃったのかしら──」
　朝、兄の姿はもう見えなくて。
　せめて、「気をつけて」の一言だけでも言いたかった、最後に抱き締めて欲しかった。
　そんな事を思いながら、兄の携帯へ電話する。

　「…え？　お兄様、日本に来てないの…？」
　……いつからだろう、お兄様の声がこんなに冷たくなる様に感じられたのは。
　いつからだろう、お兄様がこんなに──

　「…いいえ、なんでもない…ごめんなさい」
　電話はこちらが切るよりも早く、無常にも冷たく切られた。