You complete me.｜リアクション

You complete me.

　そして――とうとう、ペアリングが受け取れる日がやってきた。
「サイズを測ったのは夕方近かったし、浮腫んでてサイズが違ったりしてね？」
「もう、そういう不安になるようなこと言わないでよ！　でも、ワットが待っててくれるならいいんです！」
　再調整になったって構うものか。ворに同意を求めるように笑いかける柚春は、今でも何だって『彼』に話しているのだろう。
「まったく……今日は、デートじゃないの？」
「もちろんデートだよ！」
　時折、何故か鞄から落としそうになっていることのあるворを、しっかり奥底にしまって。２人は手を繋いで、指輪の最終確認へと向かった。

　石も刻印内容も、問題なく仕上がった指輪を、柚春は「記念だから」と箱に入れて貰うことにした。
「サイズ確認は？」
「したいけど……やっぱり最初は、いい場所で付けて欲しいし！」
　それを聞いた店員は、ニコニコと近場の人気スポットを紹介しながら、サイズ直しはいつでも承りますと後押しもして、２人を送り出してくれる。
　初めて訪れた時には借りてきた猫のようだった柚春も、今日は喜びが勝っているのか、それとも度胸がついたのか。店員へにこやかにお礼を告げて退店することが出来た。
「さぁて、本日のご予定は？」
「えっと……まずは南京錠かな」
　指輪を注文するときにお願いしていた、ハート型の南京錠。猫恋の鐘の近くにも錠を付けるスポットはあるけれど、そこに２人で錠をつけたことはない。
「錠には永遠の愛を誓う、愛を結ぶっていう願いが込められてるから一緒に付けたかったんだ」
　たくさんの錠に埋もれるからと説得し、南京錠には柚春が告白した日付と、２人の名前が刻印されている。
「でも……ワットが『誓い』を真面目に考えすぎるから、今日は愛を結ぶほうでお願いしようよ」
　――１年後。柚春が卒業をして、来年の誕生日を迎えたら。
　今は緩い結び目でも、そのときにはしっかりと結ばれ、誓いへと変わっているかもしれないでしょ、と笑う。
「だから、鍵はちゃんと持っておいてね？」
　互いの瞳色のチャームがついた南京錠の鍵には、告白した日付と、２人のイニシャルが刻印されていた。
「これは、川にでも放り投げるの？」
「しないよ！　鍵には相手に『心を開いて』って願う意味があるんだから」
　誓った愛を解くことがないように、鍵を捨てる人もいるとは聞くし、そういう考え方も素敵だとは思うけど。
「心を開く『愛鍵』なんだから。大切にしてよ？」
「なるほどねぇ……でも、その鍵ならもう柚春は持ってたじゃない」
　心がないと言って突き放したウォルターから目を背けず、柚春は心があると訴えた。見たくないとずっと蓋をして、線を引いて閉じこもっていたのに……ちゃんと、『心はあるよ』と教えてくれたから、今がある。
「えっ？　そ、そうかな……」
「だって心が無いって言ってるのに『証拠は挙がってるんだ、出てこい！』なんて心の鍵をチラつかせてさぁ」
「そんなこと言ってないし、やってないよ！」
　大笑いするウォルターが、どこまで本気かはわからない。だけど――これだけは、柚春にもわかる。
「ほらフェンス！　行こうっ！」
　確かに大人と子供の、教師と生徒の線引きは変わらずあっても、彼との心の距離は縮まってきていると。

（いつか、ちゃんと恋人になれたときは……もう一度）

　しあわせの音色が、優しく２人を包むのは――きっと『あっという間』の、未来だと信じている。

　さぁ、ここからが本番だ。
　前回のお台場デートで叶わなかった、指輪の交換がとうとう、今度こそ実現する。
（下調べもしてきたし、さっきもお勧めスポットを教えてもらったし……！）
　気合いの入る柚春だが、さすがのお台場。告白するなら、プロポーズするならと有名スポットは山ほどあり、そこから休日の混み具合を考えてロマンチックになれる場所となると――絞りきれるわけもない。
　２人きりで夜景を楽しめる、絶好の人気スポットだった観覧車は、数年前に撤去されてしまったし、海浜公園からの夜景も先日楽しんでしまった。
　冬場なら様々なライトアップが至る所で行われていて、静かに肩寄せ合ってという雰囲気作りに一役買ってくれそうなのだが、春先はランタンを飛ばしたり、プロジェクションマッピングが砂浜に映し出されたりと、賑やかに遊ぶイベントが多いようだった。
（かくなる上は――）
　数年前に閉鎖されたショッピングモールを改装して作られたという、インクレディブル・イマーシブ。そこは元々、中世ヨーロッパを意識した街並みで作られていた建物で、今もその内装を活かして没入型アミューズメントパークに生まれ変わったという。
「ねぇ、素敵な教会があるって聞いたんだけど……行ってみない？」
　閉鎖される前の写真しか見当たらなかったが、内装を活かしているなら教会は残っているはず。
　そこでなら、ロマンチックな指輪の交換が叶うはずと――柚春は期待して、ウォルターの手を取った。

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