ずっとあなたといたいから｜リアクション

ずっとあなたといたいから

●森のレストラン
　時刻はちょうどブランチタイム。
　早い出発に合わせて朝食をとったこともあり、既にお腹がすいていた3人は、お城に行く前に、お昼ご飯を食べることにした。

　いろいろなメニューがある中で、柚春が選んだのは、フィッシュアンドチップスだ。
　理由はひとつ。
「これが定番だって本に書いてあったから」
　実際にそう言えば、ウォルターは「まあそうかもねえ」と苦笑する。
「イギリスと言えば、フィッシュアンドチップスか、イングリッシュブレックファストか。日本に来てそういう話をたくさん聞いた気がするよ」
「えっ、実際は違うの？」
「まあそればっかは食べないよねえ」
「そうなの！？」
　柚春は驚きの声を上げた。
　視線は自然と、ブラックウッド家の食卓を管理しているだろうメアリへ。
「まあ……ワンプレートに揚げ物ばかりは……あの、ウォルターさまも成人されてますし、その、身体によくないですから」
　レストランという場所ゆえだろう。メアリが言いにくそうにそう説明する。
　そこに、ウォルターが言葉を添えた。
「僕たちは日本が長いからねえ。メアリはいろんなメニューを作ってくれるよ。イギリスの食事はもちろん、和食も美味しいんだ」
「すごいメアリさん！　何でも作れるんだ」

　談笑しながら、窓から見えるお城を眺めながら、食事が届くのを待つ一行。
　途中、柚春はふと、店内に飾られていたイギリス全土の地図に目を向けた。
「そういえば、２人はイギリスのどこ出身なの？」
　これまで聞いたことがなかったと思い、尋ねる。
　先日見た旅行雑誌には、多くの都市の写真が掲載されていた。
「僕たちはイギリスってひとくくりにしちゃうけど、地域によって雰囲気が違うんでしょう？」
「そうだねえ」
　ウォルターが、おっとりと答えた。
「僕たちはいろいろなところに住んだねえ」
「旦那様がお忙しくされていましたからね」
　メアリがうなずく。その表情はまるで、暮らした各地を一か所ずつ思い出しているかのようだった。
　対してウォルターは、あっけらかんと。
「たぶん、寝子島のお屋敷が一番長いんじゃない？」

　そう、聞いた直後、柚春の胸に、温かな気持ちが広がった。
（なんか、寝子島がワットの実家って言われてるみたいで嬉しいな）
　無意識にほころぶ唇。

　そこにちょうど、頼んだ食事が到着した。
　真っ白な皿にのった揚げ物の山に、柚春が目を見開く。
「これがフィッシュアンドチップス……。メニューの写真で見た感じより、すごくボリュームがあるね……」
「ははっ、メアリが『揚げ物のワンプレートは……』って言ってた意味がわかったかい？」
「うん……これはなかなか」
　とはいえこれがイギリスの味、ウォルターが生まれた国の味だと思えば、食欲も増すというもの。
　柚春は、たっぷりのビネガーをかけて、じゅわりと油のにじむ揚げ物たちを味わったのだった。

このページにイラストを設定する