【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ｜リアクション

【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ

　◆東大の合格発表日

　その日は八神修が受験した東大の合格発表日であった。
　修は、合格発表の時刻に合わせて七夜あおいを誘って、シーサイドタウン駅前の、ネット環境の整ったフルーツパーラーへやってきていた。
　案内されたのは二階窓際の横並びの席で、景色や交差点を行き交う人々が良く見える。街ゆく人々は、上着の色が明るくなって足どりもどことなく軽い。
「春になってきたね」
「そうだね」
　季節限定の桜スイーツを前に、修はおもむろにノートパソコンを開いた。
「今日、合格発表なんだよね」
　さらりと告げる修に、そのことを知らなかったあおいは驚いて目を丸くする。
「東大の？」
「そう」
　修と定期試験の勉強をする機会もあったあおいは、修が一年生の頃から東大を目指して勉学に励んできたことをよく知っていた。
「きっと大丈夫だろうけど、ドキドキするね」
「そうなんだ。自信はあるけど不安がないわけじゃなくてさ」
「私は合格発表の日すごく緊張したけど、修くんでも緊張するんだね」
「そりゃあ、俺だって普通の人間だよ。だから少しでも日常の中で待ちたくて、今こうしてあおいと、ね」
　修は自分の言葉を照れくさく感じ、鼻の頭を掻く。
「でも、いいの？　私がいて」
「いっしょに見て欲しいんだ」
　修はあおいも見える位置にノートパソコンを置く。
　それから、ふたりで画面の下部に表示されるデジタル時計の表示を睨むことしばし。
「……時間だ。行くよ」
　東大の合格発表のサイトへアクセス――！
「……！」
「……！」
　修もあおいもごくりと息を呑む。
「…………」
「…………？？」
　さんざん待たせた挙句、表示されたのは『アクセス過多で表示できません』というエラーメッセージだった。
「うそだろ……」
　修もあおいも気が抜けて、がくーっとテーブルに突っ伏す。
「緊張を返してくれないかな」
「アハハ……ＷＥＢ合格発表あるあるだね」
「仕方ない。もう少し時間をおいてからアクセスしよう」
　ということで、桜スイーツを楽しみながら、サイトの混雑緩和を待つこと数十分。
　ついに合格者の番号が表示され――。

「……っ！」
　修の小さいながらも力強いガッツポーズを見て、あおいもぱあっと明るい顔になる。
「合格？」
「ああ。夢への第一歩、理科三類合格だ」
「おめでとう！」
「ありがとう、あおい」
　修は喜びのあまり、あおいの手を強く握っていた。
「わ、修くん！？」
「ごめん、思わず……」
　ぱっと手を離すと、修はあおいを見つつ優しく笑う。
「もうすぐ進路は分かれるね。春から住む場所が離れても――」
　心は近くにありたい。そう願う。
「お互い、頑張ろうな」