【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ｜リアクション

【進路・合格発表】寝子島に、サクラ咲くころ

　◆祝う日

「うん、……そうか！　おめでとう！」
　鴻上彰尋は微笑んで電話を切る。
　自室のベッドに仰向けに寝転んで見返すニャイングループには今朝送った彰尋の「大丈夫だよ」の吹き出しに続いて、「やった！」「合格！」の文字たち。

　木天蓼大学の合格発表があったこの日。
　彰尋のスマホは、木天蓼大学を受験した友人たちからの通知や電話をひっきりなしに受け取っていた。
　彰尋自身はＡＯ入試で木天蓼大学芸術学部に進学することが決まっている身であったが、一般入試で受験して、この日が運命の日というクラスメイトや仲の良い友人も少なくない。ゆえに彰尋は他人事とは割り切れないドキドキした気持ちで、この日を過ごしていた。
（思い返せば俺がＡＯ入試合格した時も、みんな自分の事の様に喜んでくれたっけ……）
　ＡＯ入試は、一般入試の何カ月も前に行われる。
　みんなが試験勉強の最終ギアを入れようか、というころに決まるのだ。
（みんな忙しいに違いなかったのに、けっこうあったかく祝ってもらった）
　気のいい友人たちである。
　彰尋を仲間と思い、彰尋が行く道を決めたことを我がことのように手放しで喜んでくれた。
　高校でそういう友人たちに出会えたことは、彰尋にとって心からの宝だ。
（あの時のあいつらも、今の俺のような気持ちだったのかな）
　灯りがほうっと胸に広がるような気持ち。
（あのときの嬉しさをお返ししたい）
　そう思った彰尋は、友人たちとのニャイングループに、
『今度みんなと合格祝いをしよう』
　とメッセージを打ち込みかけた。
　投稿を意味する紙飛行機のボタンを押しかけて、ふと、手を止める。
「いや……今度じゃないか、これからやろう」
　先ほどの文言を消して、『これからみんなで合格祝いをしよう』と打ち直す。
　するとすかさず既読がついて、ＯＫやいいねのスタンプがついた。
「みんな早いな。じゃあ、……」
　集まる店と集合時間を書き込んで、彰尋は出かけるための身支度を始める。
　３学期になると３年は自由登校で、学校に行く機会も少なくなった。会うのが久々の友もいる。
　元気にしているだろうか。
　早く顔がみたい。
（別の学校に進学したり、留学になるやつもいるけど……お祝いをするのは何回だっていいしな）
　きっと見られるだろう、友人たちの晴れやかな顔や、他愛ないやりとりを想像して微笑む。
　彰尋は靴を履いた。
　ドアを開ければ、早春の匂い。
　晴れわたった空に深呼吸すれば、日差しがきらきらと彰尋の頬を照らす。

　――さぁ、出かけようか。