チョコ、チョコチョコっとね｜リアクション

チョコ、チョコチョコっとね

【まちあわせ】

　待つ、というのも時にはいいものです。そわそわして、たのしい想像がふんわりほわんとめぐって、あたたかい気持ちになれました。やがてやってくるだろうきらきらの笑顔を思い浮かべると、それだけで幸せな気持ちがわいてきます。なんだかぽかぽかして、朝からの冷え込みも気にならないくらいです。
　今日は休日、シーサイドタウン駅前はにぎやかな喧噪につつまれています。周りを見渡せばあっちにカップル。こっちにもカップルでしょうか。仲むつまじく歩いたりおしゃべりしたりするふたり組がやたらに目につきました。
「ふむ」
　倉前七瀬はちょっぴり思案。ふむむっ。
　たとえば今、隣に彼がいたとして……二人はどう見えるでしょう。友人同士？　あるいは兄弟？　若作りな彼と、親子には見えない……と思いたいですけれど。
　彼とどんな風に見られたら嬉しいだろうか、と七瀬は考えてしまいます。考えて、やっぱり、
「よく分からんとですね……」
　おたがいの関係をなんと言葉に表したものか、いまだ分からずにおりました。なんとな～く、それっぽ～い言葉は浮かんできますけれど、やはりどうにもぴたりとそれを当てはめるのはな～んか、チガウ気がするのです。そうじゃないよなあ～って思ってしまうのです。
　結局のところ、あえて名づけない今の関係性が気に入っているのかも。決めつけてしまったら、名前をつけてしまったら、引っ張られてしまいそうですから。
「おや。雪ですね」
　気がつくとはらりはらり、空から白い雪が舞い下りてきます。手のひらを広げると、ふわふわり。まるで天使の羽みたい。ピーカンの晴れ渡る青空もいいですけれど、わたあめみたいなこんな空もたまにはいいものです。
「やー、少し遅れちゃったかなぁ？　おはよう倉前」
「あ、ウォルターさん！」
　今日も今日とてにこにこ笑顔。冬の装いも素敵なウォルター・Bが手を振りやってくると、七瀬の胸は自然と弾みます。
「お招きありがとう。何をするのかよく分かってないけど」
「いいんです。今日はぜーんぶ、うちがぷろでゅーすしますから」
「そりゃ楽しみだねぇ」
　本日は予定はいろいろ、詰まっておりまして。やること盛りだくさんです。といっても大きな目的はひとつ、そこに向かって工程を積み重ねてゆくのですけれど。
「まずは買い物からです」
「オーケー、どこにでもついていくよぉ。荷物持ちもまかせてよ」
「たのもしいですー」
　ぐっと力こぶ、なウォルターさんにトキメキつつ、まずは近くのスーパーマーケットへ。
「卵。砂糖。みりん、重曹、薄力粉……」
「あ、やっぱりなにか料理するんだね」
「ふふふ、ごちそうしちゃいますよー」
　いつになく浮かれている七瀬、お顔はゆるみっぱなしの足取りもてけてけてんと実に軽やか。他愛のない会話のひとつひとつもぽいんと弾みます。
「次は向こうのお店に。製菓材料の専門店なんです」
「へえ。あ、甘いにおいが漂ってきた」
　ふんふん、くんくんと小鼻をひくひくさせるウォルターさん。
　『Petite Chef』という製菓材料専門店は、最近シーサイドタウンにオープンしました。ウォルターさんはもちろん、先日から気になっていた七瀬も初来店です。おしゃれで明るい店内にわくわくしつつ、
「ええと。はちみつ、こしあん、チョコ……」
「うん？　あんこにチョコ？　なにを作るのかなぁ」
「ふっふふふー」
　彼が隣で楽しそうにしていると、どうにもふわふわ、心が浮かんでしまうよう。自然とぽいんぽいん、弾んでしまいます。
「なんにしろ楽しみだねぇ、ちょうど甘いものが食べたいと思ってたんだよねぇ」
「そうなんですか？」
「うん。今日はそんな気分」
　気まぐれな彼なので、時におせんべいな気分もあれば激辛カレーな気分もあったり、イタリア～ンなとき、おフラ～ンスなときもあったりいろいろですけれど。そこへいくと今日はバッチリな日であったようです。
「はい、これで買い物はおわりです。それじゃ、僕の家へいきましょう……おっととと」
　うっかりエコバッグの持ち手が片方はずれ、満載の食材がこぼれそうになりましたけれど、
「よっと。うわ重っ、こりゃ買い込んだねぇ。じゃ、半分ずつ持っていこうかぁ」
「あ……は、はい。ありがとうございます……ウォルターさん」
　重たい荷物をはんぶんこ。ちょっとしたことなのに、やっぱりほわわん、ほわわわわん。七瀬の心はどこまでも浮かび上がってしまいそう。

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チョコ、チョコチョコっとね

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