チョコ、チョコチョコっとね｜リアクション

チョコ、チョコチョコっとね

【あんことチョコのハーモニー】

　すっかり出遅れてしまいまして。どうにも決まらず、定まらず。な～んか納得いかなくて。コレジャナイ気がしてしまって。
　チョコです、チョコ。バレンタインのチョコレート！
「あ、なるほど、チョコくれるってことね？」
「はい。すっかり遅れてしまいましたが……ウォルターさんへのプレゼントを、これから作ります！　いっしょに！」
　どどん！　とたくさん買い込んだ食材をキッチンに置いて、七瀬は本日の趣旨を大発表。バレンタインにどうしても渡せなかったチョコレートをあらためまして、ウォルターさんに手渡したい！　ということなのです。
　そろ～り、七瀬がウォルターさんの様子をうかがいますと、彼は指をつなげて、まるっ。
「おっけー、いいよぉ。楽しそうだしねぇ。で、なにつくるの？」
「今回は、チョコ風味のどらやきを作ります」
「ほうほう！　そりゃいいね、うまそーだ」
　ほっとして、七瀬は肩の力を抜きました。ちょっとばかり力が入っていたことに、今さらながらに気がつきました。あれだけ悩んで決められなくて、ようやくこれだ！　と決めたけれど、いまひとつ自信が持てなかったもので。
　チョコ風味どらやき。どうやらひとまず、わくわくしてもらえたようです。
「定番のあんこもいいけど、チョコ風味かぁ。どんな味だろうねぇ」
　白い歯みせて、にかっ。少年のように瞳を輝かせる彼はいつもの余裕シャクシャク、七瀬を導いてくれるオトナなウォルターさんの一面とは違った、フレッシュな魅力にあふれています。イタズラごころを発揮したり、たくみな言葉あそびで翻弄されるのも楽しいですけれど、隙だらけの油断したこんな顔もまた、イイものです。彼との距離がうんと近くなった気がします。
「で、どら焼きってどう作るんだい」
「僕も知らなかったので、調べました。このレシピ本を参考にしましょう」
　活字にどっぷりとひたる七瀬の趣味がここでも活きました。自室に漫然と置いてある書籍のジャンルは実に雑多でして、積まれた山をひとつかふたつもくずして探してみれば、ぴったりのものが見つかったりします。レシピ本はその一冊です。
　ぱらぱらりとチョコどら焼きのページをひらいたら、レッツクッキン。
「まずは皮を作りましょう。ええと、ボウルに卵を溶いて……」
「はいはい、ボウルに卵ね。ぱかっと」
「砂糖を加えて泡立てる」
「砂糖、砂糖。これだね」
「それは塩です！　砂糖はこっち。えー、じゅうぶんに泡立てたら、はちみつとみりんを加える」
「みりんかぁ。日本に来たばかりの頃、メアリのおつかいでみりんを買いに行って、困ったことがあったな。日本の調味料って独特なものが多くてねぇ」
「ああ。しょうゆとか料理酒とか、海外に行くと見つからなかったり高値だったりするんですよね。って、この前読んだ本に書いてたとです」
「そうそれ。そんな感じ」
　なんておしゃべりも弾みつつ、ボウルへあれこれ投入したりかきまぜたり。
「今回は、皮にもカカオ風味をつけていきますよー」
「おー。いいねぇ。ていうかもう美味しそう」
「あはは。たしかに」
　生地を泡立ててほんわかになったら、冷蔵庫で３０分寝かせます。
　その間にあんこを作っていきますけれど、やはりここでもチョコの登場。今回はチョコどら焼き、バレンタインのプレゼントなものでして。
「チョコを湯せんして溶かします。今回はこの板チョコを使いましょう。一枚１００円のじゃなくて、製菓用のちょっといいやつですよ」
　つやつやでぴかぴかのチョコはなんだか溶かしてしまうのがもったいないくらいで、ほほ～と覗き込むウォルターさんの瞳はやっぱりきらきらしていて、
「……ちょっと味見、しちゃいますか？」
「うん、しようしよう」
　それでは、と七瀬はちょっぴり居住まいを正しまして。
「あ、あーん」
　チョコのかけらをそろりそろり、彼の唇へ近づけてみますと……食べてくれるかな、なんならすこうし躊躇したりするかな、なんて思いながらに待ったのは、ほんの一瞬でした。ぱっくん！
「これは……うまい！　高級な味がするよぉ」
「ははは、そこまでお高いわけではないですけどね」
　湯せんするとチョコのあま～いかおりがキッチンに、いいえ部屋中にめいっぱい広がって、もーたまらん！
「うまく溶けましたね。それじゃあこのチョコを」
「あんこと混ぜるんだねぇ。チョコ風どら焼きかぁ、いやぁ楽しみだねぇ」
　しきりにおいしそうだねぇ、楽しみだねぇとわくわくが止まらないウォルターさん。そんな彼を隣で見つめていられるのは、きっとこれ以上にないしあわせなのだろうと、七瀬の胸はあたたかく灯りました。

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