冬の季語ってたくさんあるから｜リアクション

冬の季語ってたくさんあるから

【氷解（こほりどけ）】

「わー♪」
　寒いさむい冬をとおり抜け、少しずつ春の足音も聞こえてきた……かな？　といった２月の寝子島にて。
　梓智依子の目の前をぱたぱたと駆ける愛娘、５歳の楓は愛らしく、危なっかしく、なにかと目が離せません。公園のちょっとした水たまりに張った薄氷を踏み割っては智依子を振りかえって、にっこり。
「ママ、ねこちゃん！」
「あら、本当ね。かわいいわね」
「ふふふ～」
　てこてこ歩いてゆく野良にゃんこを見つけてはやっぱり振りかえり、に～んまり。見ていて飽きません。
　冬の間に張りつめた氷が少しずつとけていくかのように、楓の歩む成長のあしあともちらりと浮かび上がってきます。日々大きく重く、華やかになってゆく娘にふと、ほんのり寂寥の気持ちがわいてきたりもします……あとどのくらい、抱かせてくれるかな。あとどのくらい、頭を撫でさせてくれるかな。ちょっぴり、さみしいですけれど。
「ママ、さむくない？　だいじょうぶ？」
「だいじょうぶよ。ありがとう、楓はやさしいわね」
　愛おしさはつのってゆくばかり。思わずむぎゅっとして、肌寒さに赤く色づいたほっぺたをすりすりすり。
「ママ、くすぐった～い」
「ふふ。ごめんね」

　心おだやか。今日はアルバイト先のオモチャ屋さんも設備点検の臨時休業で、ぽっかり空いたお休みに、なんの気がねなく過ごすことのできるこのよろこびを、ゆったり。まったりと。
　ぴゅうと吹き抜けたつめたい風も気にならないくらい、智依子の胸はあたたかくて、満たされて。

　そんなふうにおだやかな時間を楽しんでいるうち、いつしかまどろんで。
「ママ、ママ！」
「ん……どうしたの、楓」
　くしくしと目をこすり、ぱちりと開けると、
「おっきなねこちゃん！」
「智依子ちゃん、寝不足ですかにゃ？　よふかしは美容によくないと、人間さんは良く言ってますにゃ～」
　ででん。ずずん、どどどどん！
「お……」
「おや？　びっくりしたかにゃ？」
「おおきい……？」
　週間かぎしっぽのねこねこ記者とは、何度か顔を合わせたこともありました。なんでねこがしゃべってるの？　とか、ねこの新聞ってなにそれ？　とか疑問はイロイロありつつも、なんだかんだと旧知の間柄です。
　そのねこねこ記者が、今日はなぜだか……でででで、でっか～～～い！！　体長何メートル？　智依子の頭上、あたまひとつふたつ、いやみっつよっつも高いところでごろにゃんと鳴くねこねこ記者の巨大化っぷりときたら、小さな楓などプチッとつぶされてしまいそうなくらいのサイズ差です。まあその楓などはねこねこ記者に先ほどからぴったり抱き着いて、もっふりふかふかを堪能しておりますけれど。
　しばし智依子はポカンとしたのち、
「あの……今日はどうしてそんなに大きく？」
「よくわかんないのにゃ。寝子島ってそういうとこあるのにゃ」
「ああ、ええ……そうね。そうかも」
　なんだか納得。
　可愛がられるタイプかと思いきや案外あやすのもお上手、ねこねこ記者の優しいナデナデにうっとりしつつ、楓もでかにゃんこに興味津々のようで、
「ねえねえ、ねこちゃんなのになんでしゃべれるの？」
「にゃ？　そういえば、なんでですかにゃ～」
「ねえねえ、ねこちゃん、ママのことすき？」
「智依子ちゃんはかわいくてかっこよくて、アイドルみたいだにゃ。もちろん好きだにゃ～」
「ちょっ……！　は、恥ずかしいから……」
「ねえねえ、ねこちゃん！　ねえねえ！」
　すっかりお気に入り。大喜びです。
　と、
「あ。我輩のお友だちも来たようですにゃ。今日はオフなのにゃ、猫集会の日なのにゃ」
　ずん。ずずずん、ででででどどん！！　公園にはつぎつぎに巨大猫がやってきて、あっという間にみっしりぎゅうぎゅうです。
「すごーい！　ママ、でっかいねこちゃん！　すごいねー！　かわいいねー！」
「え、ええ。気をつけてね楓、つぶされちゃわないように」
　なんて母の心配もよそに、愛娘はもふもふの背中に登ったりもふもふから落っこちてもふっと抱きとめられたり、まるでアトラクションのように大満喫。
　ハラハラしてしまいますけれど、
「ふわふわで気持ちいいね、ねこちゃん！　ね、ママ！」
「……ふふ。そうね」
「智依子ちゃんも乗っかるかにゃ？　だいじょうぶにゃ、こわくないにゃ」
「そう？　それじゃ、ちょっとだけ」
　もっふり、ふかふか。日だまりのにおいに包まれて、母娘はねこまみれを堪能しました。
　たまにはこんな日もいいかな、と智依子もうっとり。ふわふわ、まったり。いつまでも。

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冬の季語ってたくさんあるから

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