はこづめ。に｜リアクション

はこづめ。に

　稲積柚春はウォルター・Bと計らずも密着しながら、考え込んだ。
（ワットとぎゅうぎゅうって）
　覚えのある感覚である。
「前にも……あったよね？」
　ウォルターが苦笑を浮かべる。
「終始大変だったから忘れられないよねぇ」
「あの時と同じなら、脱出の条件があるはず」
　どこかにヒントがある。お互い目が届く範囲で探そうということになった。
（でも、見つけちゃったら離れなきゃならないし、もう少しこうやってくっついていたいな）
　ふと、前回の記憶を辿っていると、疑問が浮かんだ。
「そういえばあの時、触った硬いものってなんだったんだろう？」
「え？」
　ウォルターが不思議そうな顔をする。
「硬いけどチョークやベルトじゃなかったよね。ポケットに何か入れてた？　スマホとか。でも角ばってはなかったかな」
　ウォルター、数秒沈黙。
「ワット？」
「それはまぁ、ヒントとは関係なかったからねぇ。それより、早く脱出しないと体が痛くなりそうだ」
「あ、うん。そうだよね」
　天井、壁、床それぞれ見回してから何もないことを確認する。
「あれ……全部見たよね？」
「うーん。見てないとしたら僕達の真下かな」
　ウォルターが腕の力だけで、体を少し浮かせ、自分の座っていた床を確認する。
「ない、みたい」
「！　稲積、少し足をずらして」
「え？」
　言われた通りにしてみると、柚春の座っている位置にヒントの文字が見えた。しかしながら、完全にお尻で踏んでいる状態だ。
「あ、そうだ。僕がワットに抱きついて、それでお尻を浮かせるから、その間に僕が自分で見るよ」
「簡単に言うけどねぇ、この体勢で」
　柚春はウォルターの頭に手を回して、文字通り飛びついた。
「わぶっ！？」
　ウォルターの顔が柚春の胸元へ埋まる。
「ちょっと我慢してね、ワット」
　ウォルターの体を引き寄せながら自分のお尻を浮かせる。
「えーと……ミミセメ？　え、何これって……あれ、硬いのが当たって」
「稲積！」
　慌てて引き離したウォルターは躊躇いなく柚春の耳にふっと息を吹きかけ、甘噛した。
「ひゃ！？」
　何の説明もなくされたので、妙な声が出てしまい、気づけばそこはウォルターの屋敷の玄関だった。
「……あれ」
　薄暗い玄関で、少し顔を赤くしたウォルターがふうっと息をついて立ち上がる。
「よくわからないけど、出られたみたいだねぇ。良かった良かった」
「え？　ど、どういうこと！？」
「どういうことだろうねぇ？　それより、明日も学校なんだから、家まで送るよ」

ヒント『ミミセメ（耳責め）』