はこづめ。に｜リアクション

はこづめ。に

　桜井ラッセルはほんのりと漂うレモングラスの香りにゆっくりと目を開けた。
「晴月……」
　香りで覚えてしまっているのか、無意識に風の精晴月の名を口にしていた。
「んあ」
　意識がはっきりとして来て、目をこする。何度か瞬きをしてみるとそこは薄暗い空間だった。
　しかも、
「は！？　なんっだ、これ！　狭っ」
　上手く身動きが取れないくらいに狭かった。しかし、柔らかい感触に寄り添われているのもわかった。
「んん、ラッセル？」
　目を擦りながら、ラッセルを見上げて来たのは風の精晴月だ。身体を丸めていたので、眠っている子猫のような状態だった。ついでに言えば、ラッセルが抱っこしているかのような体勢だったのでいつぞやの寮のことを思い出した。
「やっぱりラッセルだ～」
「やっぱり晴月か」
　このほんのり香るレモングラスの香り、忘れるはずもない。
「……おやすみ～」
「ちょっと、おい！　なんでそうなるんだよ」
　すると晴月がぎゅっと抱きついてきた。
「暖かくて気持ちいいんだもん。ラッセル、お日様みたい」
　ラッセルはどきりとした。
「いやいや、高校生男子を捕まえてお日様みたいはないだろ」
　それを言うなら晴月のほうがずっと暖かい。
「それより、どうにかここから脱出しないとな。ええと俺が右に動かすから力加えていいか？」
「よくわからないけど、うん」
「よっ！」
　全力で押してみるが、びくともしない。
「おーい！　だれかー！」
　声は響いて、吸い込まれて行くようだ。誰かに聞かれている気がしない。
（二次創作でよく見る箱詰めされるってやつか……）
　強制イチャイチャというジャンルがあるのかわからないが、もはやそんな感じだ。
「はあ、どうしたもんか」
　困り果てている雰囲気を醸しつつ、目の前のふわふわな女の子を抱き締める。
（いや、抱き締めないのはもったいないだろ）
　これ以上何かをしたいとかではなく、好きな女の子をただただぎゅーっとしたいのだ。
「あはっ、どうしたの？　ラッセル」
「……身動きが取れないから、寄せ合えばスペース出来るだろ？」
「なるほどー。じゃああたしも」
　お互いぎゅむぎゅむ。
（次会える時まで充電しておかねーと）
　と、その時。
「おわっ」
　お互いひっついたことで、本当にスペースが生まれ、ラッセルは後ろに倒れ込んだ。軽く頭を打ってしまい、
「いつつ」
「大丈夫？」
　目を開けると、鼻先が触れそうなくらい近くに晴月の顔があった。
「だ……大丈夫だ。てか、晴月こそ」
「あたしは大丈夫だけど、ラッセル顔が赤くない？」
　そう言って躊躇いもなくおでこがコツンと触れる。
「！！」
「やっぱり熱ありそう？」
「は、晴月」
　ラッセルは晴月の頬に手を添えた。
「ん？」
「俺さ、もう一度」
　晴月の顔がほんのり赤くなった。
「ラッセル……」
　ゆっくりとお互いの顔が近づいて行く。そして、
「うわっ」
「ひゃっ！？」
　気付けばそこは、何故か寝子島高校の屋上だったのだった。
　脱出条件『頬に手を触れる』

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