【バレンタイン】チョコレート・アンド・ファンタスティカ｜リアクション

【バレンタイン】チョコレート・アンド・ファンタスティカ

「バレンタイン話してたしもらえっかな……」
　節分祭での風の精晴月の言葉を思い出し、桜井ラッセルは呟いた。
　とはいえ、晴月は料理ができたり、お金を持っていたりするわけではない。
「いや一緒にやったバイト代あげたから、お金はもってっか。でも大事につかってほしいし。俺からも贈りたいな……」
　そう考えるうち、ラッセルはふと、晴月に渡そうと思って買った、まんまる黄色い小悪魔ひよこのぬいぐるみのことも思い出した。
「あれ渡したいな。明日、来てくれるかなあ、晴月」

　※

　そして翌日。
　小雪が降る中、晴月はひょこりと現れた。

「ラッセル、バレンタインおめでとう！　なんかね、今日すごいよ。あちこちに雪だるまとか妖精とかユニコーンとかいるの！　もっと見たかったけど、ラッセルに教えてあげよって思って、急いできちゃった」
　晴月は頬染め、楽しげに言った。
「そっか、ありがとな！　じゃあ晴月の行きたいところ、一緒に行こうぜ！」
「うん！」

　来てくれたことに歓喜しつつ、元気にうなずく晴月の首に、もこもこのマフラーを巻いてやり、コートを貸してやる。
「晴月は薄着でも寒くないかもしれないけど、一応な！」
　言えば晴月は指先がちょこんと出るだけの袖を上げ、ふわふわマフラーの裾を掴んで「ありがとう」と微笑んだ。

（ちょっ、想像以上なんだけどっ！）
　節分で羽織を貸したときは感じる余裕がなかったが、オーバーサイズの（しかもラッセルの）服を着た晴月は、なんていうか、恋人感半端ない。
（これでバレンタインのデートとか、いろいろ大丈夫かな、俺）

　街へ出た晴月は「すごいね、すごいね」と言いながら、ファンタジーの世界のようになった寝子島を見回していた。
「あの人、背中に天使の羽つけてるよ！　あっちの人は妖精の格好みたい！」
「ファンシーな衣装だなあ。……俺らも着る？」
「着たい！」

　ラッセルたちの声は、虹色たてがみのユニコーンに、しっかり聞こえていたようだ。
　あっというまに更衣室に連れていかれ、二人もファンタジー界の住人に！

「わぁっ！　白いもふもふ！　ラッセルとお揃いだ！」
　無邪気にはしゃぐ晴月に、ラッセルは、叫びそうになった口を手のひらで押えた。
『お揃い』というワードの破壊力もさることながら、晴月の格好がやばい。
（ウサ耳フードがついた白マントに、白ワンピに白ブーツって……ウサギなのか？　それとも雪の精とかか？　わかんねえけど、晴月が可愛いのはわかる。元々風の精っていうファンタジーな存在だけど童話からでてきたような可愛さ……）

　ふわもふ晴月とラッセルは、ウサ耳をふわふわ揺らして街を歩いた。
　と、気になるのは、あちこちで売られている「GODINYA」コラボのファンタスティカ・チョコレートだ。
「ラッセル、あのチョコレート……」
「食べてみっか！　噂のチョコ食べたいし」
　晴月は「お揃い」と言ったが、二人の格好はあちこちちょっと違っている。
　もふもふミトンをはめている晴月に代わり、雪だるまの着ぐるみから、二人分のチョコを受け取るラッセル。
　それを、ぱくり！
「これうまいな！　ほら晴月も食べてみ？」
　まっ白ミトンが汚れないよう、ラッセルは「あーん」と晴月にチョコを差し出した。
「あーん」と同じように言って、口をおっきく開ける晴月。
　ちょっと照れながら、赤い舌の上にころんとチョコを転がすと、晴月はもぐもぐごっくん！
「うわあっ、おいしい！　私、この前貰ったバイト代でラッセルとチョコ選べたらって思ってたんだけど、このチョコ……」
　そう言いかけた晴月に、ラッセルは「いやいやいいよ！」と顔の前で手を振った。
「その気持ちだけで十分だよ。晴月と一緒にチョコ食べれて嬉しいし！　だからあのお金は大事にとっとけって。な？」

　しかし晴月は、緑の目でラッセルを見つめ「それでいいの？」と聞いてきた。
「あ～……」
（時々核心突いてくるんだよな、晴月って）
　ラッセルは曖昧に笑い……。
「ほんとは、チョコもらえたら『好きだから、これからも一緒にいてほしい』って言おうと思ってた。でもチョコのあるなしに関わらず、俺はそう思ってるからさ……俺からのプレゼント、貰ってくれるか？」

　そしてその日のうちに、小悪魔ひよこのぬいぐるみは、晴月のもとへ。
「すっごいかわいい！　ラッセルだと思って大事にするね！」
　晴月はそう言って、黄色いひよこを思いきり抱き締めたのだった。

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【バレンタイン】チョコレート・アンド・ファンタスティカ

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