【バレンタイン】チョコレート・アンド・ファンタスティカ｜リアクション

【バレンタイン】チョコレート・アンド・ファンタスティカ

「チョコの試食なんて出来るんですか？　それじゃ、早速一つ頂きます」
　巫部紫苑はそう言って、あまーいチョコを口に入れた。
　雪だるまの着ぐるみが差し出してきた、ファンタスティカ・チョコレートである。
「……美味しい！　口の中でとろとろに溶けて、え？　違う味もあるんですか？　これは買っていかないとですね♪」
　チョコがついた指先までぺろりと舐めて、紫苑はご機嫌だ。
　その頭には真っ白猫の三角耳が、お尻には尻尾が生えたが、本人に気づいている様子はない。
　
　ふわふわゆらゆら楽し気に、チョコをいっぱい買う紫苑。
　その様子を見ている者があった。
　チョコレートの妖精の着ぐるみである。
　まるで「可愛い猫ちゃんみーつけたっ！　一緒に遊ぼ！」と誘わんばかりの熱い視線に、紫苑は振り返った。
　見てもらえて、嬉しそうに踊る着ぐるみ。
「あれは妖精？　でしょうか……バレンタインにしては何ともファンタジーな感じです」

　互いに惹かれ、自然と重なる二人の視線。
　そのときだ。
「えっ？　どこに行くんですか？」
　紫苑は近づいてきた妖精にがっしり腕を掴まれて、更衣室に連れていかれてしまった。
　そのまま流れるようにドレスを渡され、更衣室のカーテンをシャッ！
「あら、可愛い服ですね……う～ん、でもちょっと胸がキツイでしょうか？」

　深い谷間がばっちり見えるセクシードレス来た紫苑は、バストのあたりを調整すべく、腰を曲げて前傾の姿勢をとった。
　下着をつけるときのように寄せたり上げたりしつつ、更衣室の鏡を覗き込む。
　と、頭の上でゆらゆらと、お尻のあたりでふわふわと、猫耳猫しっぽが揺れているではないか。
「あれ、耳と尻尾が生えてる……なんででしょうか？」
　でも耳と尻尾がついていても体に違和感などないし、触るともふもふ気持ちいいし、なにより――。
「可愛いから、ま、いいでしょう」
　これも衣装の一部です、と納得した紫苑は、振り返り、更衣室のカーテンを開けた。

「わぁっ、とっても似合ってるよ！」
　ぱちぱちと手を叩く妖精着ぐるみに「何だか分からないですけど、素敵な衣装をありがとうございます」と会釈する。
　それから紫苑は、おもむろに、先ほど買い求めたファンタスティカ・チョコレートを取り出した。
「あ、折角だから妖精さん達も一緒に食べます？　美味しいですよ♪」
「わーい、ありがとう！　いただきます！」
　ぱくん！　とチョコを食べる妖精。
　もちろん紫苑も一緒にぱくんっ！

　と、紫苑の周りにいきなり、小さな虹色たてがみのユニコーンが現れた。
「えっ？　この子、すっごい可愛いです……！」
　白い翼をぱたぱたぱた。
　紫苑の周りをくるくる回るユニコーン。
　もうひとつチョコを食べると、今度はミニ雪だるまが、紫苑の足元でぴょんぴょんと跳ね始めた。
　そしてさらにもうひとつ食べると、紫苑の背に、真っ白な天使の翼が生えてきた。
「ふふ、美味しいチョコに可愛い衣装、素敵な出来事！　今年のバレンタインも楽しい日になりそうですね」

　と、雪だるまの着ぐるみがやって来て、紫苑に、チョコレート・アンド・ファンタスティカのイベント開催場所を示した、タウンマップを渡してくれた。
「あら、星ヶ丘の方でバレンタイン限定カフェをやってるんですか。それは食べにいかないとですね。どんな料理があるか楽しみです♪」

　紫苑は背中の翼を羽ばたかせ、小さな虹色ユニコーンたちとともに空を飛んで、街に繰り出していった。

　まずは、チョコレートカラーのエプロンをした店主の店へ。
「こちらはチョコケーキなんですね。うーん、酸味のあるクリームと甘いチョコがとっても美味しいです！」

　次は、ふわふわ帽子をかぶった店主の店へ。
「ホワイトチョコのパフェ！　えっ、ストロベリーチョコも抹茶チョコもあるんですか？　色とりどりで全部食べたくなっちゃいます！」

　焚き火をしている人のところでは、外で味わう美味しいものをたーくさん！
「ふわぁ……この雪だるまクッキーすっごくかわいいです！　えっ、ホットチョコレートにつけて？　ふふ、チョコがとろっとろ……とっても甘くて甘そうですね。あっ、スモアもあるんですね！」

　いろんなチョコを楽しみながら、ふわふわふわっと空を舞い、紫苑はイソラ・ガレッジャンテに向かったのだった。
「カフェでもいっぱい食べますよ！」