小さな幸せのアイスクリーム屋さん｜リアクション

小さな幸せのアイスクリーム屋さん

　ふらふらと、海に向かって散歩の途中。
「へぇ、この時期にアイスのキッチンカーなんて珍しいですねぇ」
　倉前七瀬は、カラフルなキッチンカーの前で足を止めた。
　とはいえ、冷たいアイスを食べる気にはならず、通り過ぎようとしたそのとき。
（白熊さんだーー！？　な、なぜ白熊さんが。ペンギンさんに、キツネさんもおる！）
　興奮に心臓バクバク、目はキラキラ。
　それでも感情を表に出すことなく平然として見える七瀬に、白熊がふわふわと手を振った。
「アイス食べる？　冷え冷えあまあまでおいしいよ」
（喋ったああっ！）
　とはいえ、喋る猫がいる寝子島だ。喋る白熊がいてもおかしくはないだろう。
「お兄さん、どれにする？」
　七瀬に買わせる気満々で、ペンギンがずずいっとメニューを出してきた。
　いろんなアイスの写真つき。
「どれもおいしそうで迷いますが……メルティチョコレートにします」
　そう言えば、白ギツネが「喜んで～」と元気に耳をピンと立てた。
　そして数分も待たないうちに、カップに入った濃厚チョコアイスが渡される。
「うん、カカオの風味を感じます。味も名前のとおり、とろけてしまいそうなおいしさですねぇ」

　キッチンカーの横に立ち、七瀬はアイスを味わった。
　独り言が聞こえたのだろう。車の中から「うふふふ」と3匹の笑い声がする。
　小さなスプーンを持つ指先が、赤くなるほどに寒いのに、冷たいアイスでこんなに気持ちがほっこりするなんて。
　思わずほうっと息を吐くと、足元に柔らかい感触。
　猫がすりすりすり寄っていたのだが、この金色の毛並みは――。
「ウォルト……！　奇遇ですねぇ」
　七瀬はその場にしゃがみこみ、青い目のその猫を、わしわしわしわし撫でくりまわした。
「よしよ〜し。今日も綺麗ですねぇ」
「にゃー」
「やっぱり君は、ウォルターさんに似てますねえ」
　会えたらいいのにと思いつつ、つぶやいた直後だった。

「あれ、倉前？」
　耳慣れた声が聞こえ、七瀬ははっと顔を上げた。
「ウォルターさん！　奇遇ですねぇ」
「本当に。こんなところで会うなんてねぇ」
　ウォルター・Bは青い目を細めてにっこり微笑んだ。
　七瀬もにっこり。
　その足元で、「ぼくもいますよ」というように、金色猫が「にゃー」と鳴く。
「おや、その子はウォルトかい？　ずいぶん懐かれたものだね」
　ウォルターはくすりと笑って、七瀬の隣にしゃがみ込んだ。
　ウォルトは、今度はウォルターの足に、にゃーにゃーすり寄っている。
「人懐こいねぇ」
　ウォルター・Bが、ウォルトの金色毛並みを優しく撫ぜる。
　それを微笑ましく見つめながら、七瀬はふと、手に持つアイスを差し出した。
「これ、そこのキッチンカーで買ったんですけど、とってもおいしいのでウォルターさんも一口どうですか？」
「冬のアイス？　いいねぇ。ありがとう。いただくよ」
　カップに置いていた小さなスプーンを手に取って、ウォルターは、ダークブラウンのアイスをすくい取った。
　その瞬間、七瀬ははっと気が付いた。
　ウォルターが今まさに口に入れようとしてるスプーンは、自分が使ったものだということに。
「ウォルターさ……！」
　声をかけようとしたがもう遅い。
　ウォルターはアイスをパクッと口に入れてしまった。
「チョコが濃いねぇ。とっても美味しいよ」
「あっ……よかったです」
　少々どもってしまったのは仕方がない。
（そういうの、気にしない人なんですね）

　その後、このチョコが気に入ったのか。
　ウォルターは同じアイスを買い求め、七瀬と二人、ウォルトと遊びながら食べたのだった。