小さな幸せのアイスクリーム屋さん｜リアクション

小さな幸せのアイスクリーム屋さん

　寝子島某所の並木道。

「ラッセル！　かわいいアイスクリーム屋さんがいるよ！」
「ほんとだ。パステルカラーのキッチンカーとか、それだけでかわい……って、白熊っ？　キツネとペンギンもいるのか！」
　桜井ラッセルが驚く様子に、風の精晴月はくすくすと笑った。
「そんなにびっくりしなくてもいいのに。ここは寝子島だよ？」
　確かにそうなのだが、服を着た二足歩行の白熊は、なかなかのインパクトだ。
「白熊のアイス屋さんなんて絵本からでてきたみてーだな！」
「見てないで行こうよ、ラッセル！」

「いらっしゃぁい」
　緑髪の空飛ぶ少女に驚きもせず、白熊が微笑みかける。
　その横で、ペンギンがずずいっ！　とメニューを出してきた。
「なににする？　うちのはぜーんぶおいしいよ！」
「晴月はどのフレーバーにする？」
「私はコットンバニラがいいなあ。あ、でもキューティストロベリーもかわいい！　けどメルティチョコも食べてみたい……」
　うーんと悩む晴月を横目に、ラッセルは、ぽつり。
「……違う味頼んで分けっこするのもいいかもなー」
　その頬がほんのりピンクになっていることに気づいたのは、晴月ではなくペンギンだった。
「ダブルもトリプルもできるよ！　いっぱいいっちゃいなよ、お兄さん！」
「えっ、だったらお願いします！　いっぱいフレーバー楽しめるならお得じゃん♪」
「ラッセル、ダブル？　トリプル？　頼むの？　じゃあ私もいっぱい頼もっ！」
　晴月はいよいよ真剣に、メニューを見て唸り始めた。
　それを苦笑して見つつ、ラッセルは、ラズベリーチーズクリームと、メルティチョコレートのダブルを注文する。
「決めた！　私はコットンバニラと、キューティストロベリー！」
　晴月の元気声を聞き、白熊が「はぁ～い」と返事をした。
　数分も待たず、晴月は、もふもふ大きな白熊の手から、アイスを受け取っている。
　その姿に、ラッセルは柔らかく目を細めた。
「夢があっていいなぁ」
　熊と晴月。お盆に載せたアイスを運ぶ、白キツネに集まる子供たち。
　ペンギンの前では、父親に抱かれた幼児が、母親と顔を寄せ合い、メニューを選んでいる。
（……そのまま絵に起こしてマジで絵本として作品にするのもあり……か。題材としては、２番３番煎じになるかもだけど、……創作意欲わくなぁ）
「なあ、晴月。俺の絵のモデルになってくれないか？　この動物のキッチンカーと和やかな感じ？　絵にしたら素敵なんじゃないかって思って」
　アイスを手にした晴月に問えば、彼女は一瞬の迷いもなく「いいよ！」と言った。
「えっと、じゃあ形にできたら、晴月の名前のせていいか？」
「ラッセルが必要なら、いいよ」
「ありがとう」

「あまぁい！　おいしいっ！」と微笑む晴月や、動物たちのキッチンカーを、ラッセルは素早くスケッチした。
「ほらほら晴月、危ねーって。ここついてる」
　口元についたピンクを指で拭ってやれば、晴月ははにかみながらも、ラッセルの手元を見て。
「食べないと溶けちゃうよ？」
「あー……うん」
　晴月の唇に触れた、アイスの残る指をどうしたものかと思いつつ。
　ラッセルは、それをそっと口に含んだ。
　晴月がふふふと笑う。一気に熱くなる顔。
　どうせ照れくさいならと、ラッセルは真っ赤な顔で、自分のアイスをスプーンですくって差し出した。
「晴月のアイス貰ったから俺のもやる！」
「私のももっと食べていいよ」
　互いに「あーん」の食べさせあいっこ。
　見知らぬ子が「お兄ちゃんとお姉ちゃん、赤ちゃんみたーい」と声を上げた。

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