小さな幸せのアイスクリーム屋さん｜リアクション

小さな幸せのアイスクリーム屋さん

（寒い日のアイスかぁ……ふふ、いいかも）
「ねえワット、アイスクリーム食べようよ」
　稲積柚春はウォルター・Bの手を引いて、キッチンカーの前に立った。
「どれにしようかな？　さすがにトリプルとかは食べられないけど、ダブルなら大丈夫かも」
　じぃっとメニューを見ていると、ペンギン店員が「ダブルはビッグとスモールがあるよ」と言ってきた。
「じゃあ、ラズベリークリームチーズと、キューティストロベリーのスモールダブルにしようっと。ワットは好きなフレーバーあった？」
　まだメニューを見つめるウォルターに聞けば、彼は「そうだねぇ」と、のんびりと。
「僕もラズベリークリームチーズかな。ひとつ、お願いします」
「はぁい」

　3匹の返事が重なってすぐ、2人分のアイスが渡された。
「ありがとう」
　アイスを受け取ってお金を払い、近くのベンチに座る。
　ラズベリークリームチーズは色合いがセクシーだ。
　キューティストロベリーは、名前の通りかわいいらしい。
「まずはこっち！」と、柚春はラズベリークリームチーズをぱくり！

「……ワットは、セクシーとキュートだとどっちが好みなの？」
「いきなりな質問だねぇ」
　アイスを一口食べたウォルターが、冷たさに眉を寄せながら苦笑する。
「本人に似合ってることが一番大事なんじゃないかな」
　戻った言葉に、柚春は「さすがワット」と呟いた。
「すごく優しい答えだね。……僕はね、ほんというとかわいいのって苦手。ピンクとかフリルとか…似合わないもん。でも、肉付きも良くないからセクシーとも違うでしょ？
それで行き着いたのが、今の服装」
　ウォルターの視線が、ふっと柚春の服に向けられる。
　といっても、季節は真冬。大半はコートに隠れてしまってるのだが。
「今の格好も結構気に入ってるけど、やっぱりワットの好みになりたいなって思うから」
　柚春はそう続けた。
　話を聞いて、ウォルターは微妙な顔をしている。
「あっ、自分をなくすとか、苦手な物を我慢するとかじゃないからね？」
　柚春は慌てて付け加えた。
「なんていうのかな……なんでもいいよって、受け入れられているようで興味が無さそうに聞こえて寂しいし、好きな物が似合ってるよって褒められて嬉しいけど、僕が喜ぶ前にワットを喜ばせたくって……」

「女の子にとって、服装は大事なことかもしれないけれど」
　真顔で聞いていたウォルターは、ゆっくりと口を開いた。
「僕と会うために一生懸命頑張って服を選んでくれた。その事実が大事なんであって、僕好みの服装をすることが大事なわけじゃないと思うんだよね。っていうか僕は、柚春が好きな格好をしてにこにこ笑っていてくれるのが一番だから」
　柚春は、きょとんとした顔で、ウォルターを見つめた。
（僕、もしかしてワットを怒らせちゃったのかな？）
　押し寄せた不安に耐えきれず、うつむく。
　でもこれだけは伝えなくちゃいけないと、柚春はすぐに顔を上げた。
「えっとね、さっきのはつまり……僕はワットが大好きってこと！」
　柚春は大きな声で断言して、キューティーストロベリーアイスをスプーンですくった。
「はい、あーん。ワットのも１口ちょうだい？」
「柚春のと同じ味だよ？」
　ウォルターが、アイスを差し出してくれる。
　一緒に互いのアイスをパクッと食べて、柚春はウォルターに身を寄せた。
「いつまでも隣にいてね、ワット」
　ウォルターはこてんと傾いだ柚春の頭に、そっと頬を寄せたのだった。