小さな幸せのアイスクリーム屋さん｜リアクション

小さな幸せのアイスクリーム屋さん

「ママ、アイスクリーム屋さんがいる！」
　梓智依子が、娘の楓を幼稚園に迎えに行った帰り道。
　小さな手は、元気よくキッチンカー指さした。
　すると中から、白熊がひょっこりと顔を出す。
「アイスクリーム、冷え冷えあまあまで美味しいよ」
「うわぁ、くまさんだ！」
　楓は、繋いでいた智依子の手をぱっと放して、勢いよく走り出した。
「待ちなさい！」
　高校の制服スカートをはためかせ、智依子は楓を追いかける。
「ママさんもいらっしゃい」
　カウンターの向こう側。
　白熊は、にっこり笑ってそう言った。
　その大きなお腹の前に、白ギツネとペンギンがちょこんと顔を出す。
「キツネさんとペンギンさんもいる！」
　面食らう智依子の横で、楓は大はしゃぎだ。
「ふふ、おじょうちゃん、元気だね」
　白熊がもふもふの手を差し出した。
　楓がそれをキュッと握ると、その手の上に、白キツネが前足を乗せる。
「くまさんもキツネさんも、おててふわふわっ」
「ボクのおててだって！」
　ペンギンは、ぺしッとカウンターを叩いた。
（子供はすぐにこうやって仲良くなれちゃうのよね）
「ママ、アイスクリーム食べたい！」
　笑顔で振り返る娘に「そうなるわよね」と思いつつ、ペンギンが差し出したメニューに目を向ける。
「どれも美味しそうだけど……。楓、チョコレート食べる？」
「たべる！」
「それじゃあ、メルティーチョコレートと、ラズベリークリームをお願いします」
「よろこんで～」
　ペンギンは、ピシッと敬礼するように手を上げた。
　それを真似て、楓もピシっ！
　キツネが笑い、白熊がアイスクリームの準備をする。
「お家に帰ったら食べようね」
「うん！」

「おじいちゃんとおばあちゃんは、まだ帰ってきてないみたいね。町内会の会合が長引いてるのかも」
　冷え切った部屋に暖房を入れて、うがい手洗いをしっかりしてから。
　智依子はアイスを皿に載せ、楓と分け合い、一緒に食べた。
「チョコレートあまーい！　おいしい！」
　愛らしいピンクの唇に、とろぉり茶色いチョコをつけて、微笑む楓。
　ご機嫌でアイスを食べる娘の写真をスマホで撮影すると、この幸せの瞬間を一緒に過ごせることに胸が熱くなった。
　と、アイスに夢中になっていた楓が、智依子を見上げる。
「おいしいから、ママもいっぱいチョコ食べていいよ」
「ありがとう。でもママがいっぱい食べたら、楓の分が減っちゃうよ？」
　智依子は、濃厚爽やかなラズベリークリームアイスをスプーンですくった。
　すると楓は、アイスを見下ろし、智依子を見て。
「ママがおいしいのがいいから、いいの！」
　そう言った表情の愛らしいこと！
「楓は優しいね。大好きよ」
「わたしもママのこと、だいすき！」
　大好きと、言うたびに心がぽかぽかするみたい。
　二人はアイスを食べ終えるまで、ずうっとにっこり笑っていた。

　翌日、幼稚園の帰り道。
「ママ、きょうね、あたらしいおともだちができたの！」
　楓は、智依子とつないだ手をぶんぶん振って、そう言った。
　そして、新しいお友達のことを聞きながら家に帰ると。
「この箱なんだろう……えっ、この前の懸賞、当たったんだ」
　受け取りボックスに入っていたのは、親子お揃いコーデに使えるスカートだ。
　軽い気持ちで答えた、オンラインアンケート。抽選３名様に選ばれたらしい。
「おようふく？　かわいいねえ！」
「今度のお休みに、これ着てお出かけしよっか？」
「する！」
　心の底から嬉しそうに、ぴょんと飛び上がった楓を、智依子は思わず抱きしめたのだった。

このページにイラストを設定する