寝子島の四季彩展・冬｜リアクション

寝子島の四季彩展・冬

◆週末の過ごし方

（今年もあっという間に１月が終わり、気が付けばもう２月もそこそこ過ぎた……）

　深倉理紗子は疲れた体をどうにか動かし、職場を後にした。明日から待ちに待った週末。彼女にとって週末の２日間は貴重な休みだ。もっとも、急患や担当患者の容態急変などがなければ、だが。
　帰路に着いた理紗子は自宅のある寝子島小学校側ではなく星ヶ丘に向かっていた。そこには中学生以来の親友、深林真瞭の住んでいるマンションがある。
　真瞭は普段東京でヴァイオリンのソリストとして活動している。忙しく日々を過ごしており寝子島には不在がちだが、今週末は珍しく仕事を入れていなかった。真瞭はやってきた理紗子を快く迎え入れた。会話もほどほどに２人とも睡眠を取り、土曜日はまったり過ごした。
　日曜日の朝。
　理紗子は夕方までのんびりと何して過ごそうかと考えながらスマホでSNSを流し見していた。すると旧市街にある森繁美術館の公式ねこったーアカウントで『寝子島の四季彩展・冬』の宣伝をしていた。

「ねえ、まーちゃん。これ行ってみない？」
「ん？」

　真瞭は理紗子が差し出すスマホの画面を見る。今日の予定を真瞭も決めていなかったので、彼女は快諾した。

「どんな展示があるんだろう」
「楽しみね」

　昼食を取ってから身支度を済ませるとマンションを出た。
　美術館に着くと日曜日ということもあり、結構な数の人がいた。入り口を抜けて最初に鑑賞したのは『ウィンタースポーツ』シリーズ。スキーやスノーボードなど、冬のスポーツをモチーフとした彫像群。しかし理紗子は最初見た時、さほど感銘を受けなかった。

（すごく上手なのは分かるけど……）

　しかし近づいてみると、彫刻が躍動感を持って迫ってくるような錯覚を抱いた。

「これ、彫刻だよね？　まるで生きてるみたいじゃない！」

　解説文にある『荒々しい造形からみなぎる生命力』という言葉を身をもって知った。その荒々しさが逆にリアリティを感じさせ、思わずテンションがあがった。次に見たのは『九夜山図』。今でいう旧市街の周辺から見上げた、冬の九夜山の雄大さを表現した浮世絵。

「これが歌川猫麻呂の浮世絵か」
「りさちん知ってるの？」
「確かこの前、ロンドンのオークションで猫麻呂の絵が数億円で落札されたような気が」
「それはすごいわね」
「こちらもさっきの彫刻とはまた違った意味で心に迫るものがあるよね。雄大で鮮やかな色遣いが魅力的で」

　猫麻呂は江戸時代後期の浮世絵師。その頃と今の違いを見比べるのも面白いかもしれない。そして次は『雪猫』を鑑賞する。雪原に寝転び無邪気にたわむれる子猫たちを描いた写実画だ。

（猫っておこたでまんまるになるんじゃなかったっけ？）

　真瞭はそう思いながら、それでも雪と戯れる子猫が可愛くてつい目を細めてしまう。理紗子もその隣で同じように絵のなかの猫たちを眺めている。
　さらに先に進むと『冬花の祝祭』というタイトルの連作のアクリル画が展示されていた。冬の花をモチーフにした、ストーリー性のある連作の絵画だ。冬の厳しい寒さの中でも力強く咲き誇る花たちと、その花を巡っておりなされる自然と人の物語。それらがキャンバスの中で繊細な筆致で描かれていて、真瞭は思わず目を瞠った。

（作者がこれを描いた時は17歳。惜しくも22歳で世を去っている。でも作品に込められた魂は生きている）

　真瞭は目を開き、アクリル画を改めてじっと見つめる。絵画のなかで繰り広げられる世界をしっかり捉えようとした。順路を最後まで巡り、美術館の外に出た。

「まーちゃん、どの作品も凄かったね」
「そうね、来てよかったわ」

　２人は作品の感想を語りながら帰路に着いた。

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