寝子島の四季彩展・冬｜リアクション

寝子島の四季彩展・冬

◆相談事

　桜井ラッセルは『寝子島の四季彩展・冬』の告知を見ながら考えていた。美術のイベントは是が非でも行ってみたい。

（１人で行ってもいいけどどうすっか）

　誰かを誘おうかと思ったとき、脳裏に海道千里の姿が浮かんだ。

（千なら楽しめるかな。それに話したいこともあるし、まあ）

　ラッセルが千里に連絡を取ると、すぐにOKの返信が来た。当日。千里とともに旧市街の森繁美術館にやっていた。

「なんで誘うかな～。そこは思いを寄せてるあの子だろ」
「ば！？　おま、外で言うな」

　あの子とは風の精晴月のことだ。
　
「いいじゃん……美術館とかデートみたいでハードル高いし、つまんねーと思われたら立つ瀬ねーじゃん……」
「そんなこと無いと思うけどな」
「それに千なら美術好きで楽しんでくれるしよ」
「まあな」

　２人は絵を通して繋がったところがあるので、芸術分野は双方の共通点だった。入場して目玉となっている『雪猫』『九夜山図』『ウィンタースポーツ』シリーズなどを鑑賞する。

「お！　このタッチ勢いがあってすっげーいいな」
「だな。ところでさ、相談事っつか聞いてもらいたいことがあるんだよ」
「なるほどこういう配色もアリか」
「話聞けよ……でも、たしかにいいなこの配色。はー……こういう色使いで表現してんのか」
「やっぱりいいなこういう催し。それで？　相談事ってのは？」
「ああ」

　作品の前で立ち止まるわけにもいかないので、ラッセルがベンチへ誘う。

「その、告白してないのに抱きしめたりキスする男はやっはマズいか……？」
「ラッセル、お前……」
「そんな目で見んなよ！」

　思わず大きな声が出てしまい、周りの注目を集める。すみません、と周囲に謝罪して小声におさえる。

「もしかして口に？」
「いや、額にしようと……」
「うーん……なるほどねえ……」

　千里は天井を眺めながらしばらく沈黙した。ラッセルは千里が口を開くのをただ待つ。

「潔癖な子もいるけど、晴月がダメなら前のオレみたいに吹っ飛ばされるだろ。されたのか？」
「いや……」
「だったら心配いらないだろ。オレとしちゃ晴月は身を守れる子だし、ガンガン押せ押せ」
「他人事みてーによぉ……」

　実際他人事なのだが、千里なりに考えて発言していることはラッセルにも分かる。ラッセルはしばらく考え込んだ後、大きく息を吐いた。

「千、話聞いてくれてありがとな」
「おう」

　それから２人で美術館を隅々まで回り、多くの刺激を受け取った。

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