寝子島の四季彩展・冬｜リアクション

寝子島の四季彩展・冬

◆相手を知るために

　倉前七瀬はウォルター・Bについて悩んでいた。

（バレンタインにウォルターさんに渡すチョコ、味も見た目もできるだけ喜んでいただきたい）

　しかし彼はウォルターの好みをきちんと理解しているとは思っていない。そんなとき、旧市街の森繁美術館で開催されている『寝子島の四季彩展・冬』を知る。

（ふむん、四季彩展……。僕は芸術にそれほど興味があるわけではないのですが、ウォルターさんの好きな色やデザインを知るきっかけになるかもしれません）

　善は急げとばかりにウォルターに連絡を取る。一緒に四季彩展に行ってほしいという簡潔な願いを、彼は快諾した。当日。２人は美術館にやってきた。

「ウォルターさん、今日は来てくれてありがとうございます」
「こちらこそ。誘ってくれてありがとう」

　七瀬はウォルターをよく観察して好みを学ぼうと密かに考えていた。

（とはいえ、ウォルターさんばかりを見ていてはだめですよね）

　無意識に七瀬はウォルターを見つめていた。ウォルターはその視線が気になって仕方ない。

「どうかしたかい？」
「あ、いえ。僕もしっかりと芸術を学んで今後に活かしたいと思います！」
「そうか」

　ウォルターは七瀬の言葉を前向きに捉えた。
　今回は寝子島の冬がテーマの絵画や彫刻など多彩な芸術作品が展示されている。マリオン・ロランの『ウィンタースポーツ』シリーズはスキーやスノーボードなど、冬のスポーツをモチーフとした彫像群。
　江戸時代後期の浮世絵師、歌川猫麻呂が冬の九夜山の雄大さを表現した浮世絵『九夜山図』など。しかし七瀬はついついいつもの癖で、作品そのものよりも解説の文字ばかり目で追ってしまう。

「倉前」

　そっと声を掛けられて視線をあげる。ウォルターが苦笑いを浮かべて作品を指さしている。

「やっぱり僕は絵よりも文字のほうが好きみたいです」
「そのようだね」

　そう言って２人で小さく笑った。それから展示されている作品を眺めたり、感想を話しながら順路通りに進む。作品をすべて見終えると美術館を後にした。

「なにか気になった作品はあったかい？」
「『雪猫』って作品は印象に残りましたよ。猫がなんともかわいらしくって」
「ああ、雪原の子猫たちだねえ」
「ちょっとウォルターさんっぽい子もいましたよね。気まぐれそうな感じの美人……美猫さん」
「そう？」
「え、そんなことないですか？」

　七瀬はウォルターの顔をまじまじと見つめる。

「ふむん、似てると思いますけどねえ」
「そんなにじっくり見られると恥ずかしいなあ」
「あ、すみません。それはそうと、ウォルターさんは気に入った絵はありましたか？」
「そうだねえ」

　そんな話をしながら歩く時間も楽しかった。

「僕は芸術にはちょっと疎いほうですが、ウォルターさんとこうやって一緒に四季彩展に来られて楽しかったです」
「僕も楽しかったよお」
「また誘ったら一緒に来てくれますか？」

　その問いにウォルターは静かに頷いた。

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