寝子島の四季彩展・冬｜リアクション

寝子島の四季彩展・冬

◆インプットと刺激

　旅鴉月詠は旧市街の森繁美術館へやってきた。現在『寝子島の四季彩展・冬』を開催中でちょうど卒業制作を作ろうかと思っていたところなので、他人の作品を見て勉強をしようと考えた。

「私もまだまだ素人だからね」

　全くそうは見えないのだが、芸術を志すもの故の思考だろうか。
　彼女いわく、美術館の回り方には２通りある。１つは順路通りに進み、その都度足を止めて作品を鑑賞する者。もう１つはざーっと早足で一巡した後、もう一巡し気になったものだけ足を止めてみる者。

（今回の私は前者。メモをとりながらゆっくり巡るとしよう）

　まずは『雪猫』を鑑賞する。雪原に寝転び無邪気にたわむれる子猫たちを描いた写実画。作者である豊村幸助はおもに動物をモチーフとした作品を多数残している。

（私も人物よりは動植物や風景のほうが得意だから豊村幸助なのかもしれない）

　とはいえ月詠は写実中心でもない。見たものに対して、ちょっとファンタジー要素を混ぜたりする。

（神魂自体がファンタジーだし）

　絵から受け取るもの、そのとき感じたこと。それらをメモしながら作品の鑑賞を続ける。

（このあたりで一旦休むか）

　月詠はベンチに腰掛けて、マリオン・ロランの彫刻をのんびり眺める。『ウィンタースポーツ』シリーズはスキーやスノーボードなど、冬のスポーツをモチーフとした彫像群。荒々しい造形からみなぎる生命力はまるで本物のようだ。

（１体の制作時間はいかほどだろうか）

　躍動感を生み出すにはどうすればいいのか。造形は荒々しくても作品が荒いわけでは無い。彫像のなかで動と静を使い分けているのだろうか。休憩で座っていても頭と目は作品を追っていた。
　
（ふーむ、長く残したいものだし制作は彫刻にしようかな）

　今日の目的は卒業制作のヒントを得ること。様々な作品を見た今なら、何か出てくるかもしれない。

（これとこれとこれを組み合わせて……モチーフはアレにして……）

　やはりインプットというのは重要だ、と改めて感じる。

（ジャンルはこれにしてみるか。集中すれば卒業までに間に合うだろう。そうと決まれば材料の発注からやらないとだ）

　頭のなかで固まった構想をメモに残すと美術館を後にした。

「卒業制作だからね。学校に寄贈して後輩の制作のサンプルにしてもらいたいし」

　月詠は静かに意気込んだ。

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