寝子島の四季彩展・冬｜リアクション

寝子島の四季彩展・冬

◆芸術感性

　稲積柚春はスマホで『寝子島の四季彩展・冬』の告知を眺めている。ウォルター・Bと一緒に行くことを考えてみる。じつのところ彼は描くことが苦手だ。

（冬のイベントで雪像や氷像を一緒に見ることはあったけど、別に突飛な感想は言ってなかった気もする。テーブルセッティングなんかは美的センスもあったし、お絵かきはまあ……苦手みたいだけど本人はそうとは思っていないみたいだし）

　彼の画力はさておき、見るだけなら楽しめるのではないだろうか。

（なら、こういう美術的な催しは嫌いじゃないよね？）

　そう考えてウォルターに連絡を取ると、彼は柚春の誘いを快く受け入れた。

　当日。２人は旧市街の森繁美術館にやってきた。今回の『寝子島の四季彩展・冬』は季節ごとに行われてきた、定期的な企画展のひとつ。入場すると様々な展示品が出迎えてくれる。

「これはなかなかいいねえ」

　ウォルターは熱心に展示品を眺めている。そして他の人の迷惑にならない範囲で柚春に作品のことを語っている。さながら『ウォルター先生』による美術の授業だ。その内容から、彼の知識の幅広さが窺える。

（苦手ですぐに飽きてしまうかもしれないと思ったけど）

　一風変わったウォルターの姿が見られて柚春は満足している。先に進むとマリオン・ロランの作品『ウィンタースポーツ』シリーズが見えてきた。スキーやスノーボードなど、冬のスポーツをモチーフとした彫像群だ。

「本当にスポーツをしてるみたい」
「そうだねえ」

　彫像とは思えない躍動感に２人とも感心するとともに、冬の思い出も語りながら作品を楽しむ。他にも『雪猫』や『九夜山図』などを鑑賞し、一旦ベンチに座って休憩する。

「なかなか面白い展示だねえ」

　彼の口から素直な感想がこぼれる。柚春も同じように作品を眺めつつ、ウォルターの表情が作品ごとに変わるのも楽しんでいた。

（どれも興味を持って見ていたけど、苦手なものもあるんだ……。でも、ワットが苦手なら僕が少し得意になっておくべきかな）

　彼女のなかでブラックウッド邸が思い出される。ところどころに置かれている調度品のなかにはきっと美術的価値が高いものだってあるはず。そういった良し悪しは知っておいて損はない。

（ワットの苦手だって最低限の知識はあった上での苦手だと思うし、サポートできてこそパートナーっぽいというか）

　柚春は視線をあげて、ベンチから見える作品たちをぐるっと眺める。

「どうかしたかい？」
「僕もこういうのを勉強しておこうかなと思って」
「いいと思うよ」
「じゃあワットが気に入った作品はどれ？」
「うーん、そうだねえ……」

　せめてウォルターが気に入った作品の作者だけでも勉強しよう、と彼女は思った。

このページにイラストを設定する