九夜山雪まつり｜リアクション

九夜山雪まつり

　初瀬川理緒と佐和崎紗月は、人気グラドルであり木天蓼大学の１年生です。
「秋季試験が終わったし、2月から長い春休みだね。でも……あまり喜べないんだよね」
　理緒の言葉に紗月も頷きます。
「冬休みが終わったと思ったらすぐ春休みで、驚いちゃったけど……でもね」
　理緒と紗月は、去年のハロウィンで恋人宣言をしました。
　人気グラドル同士の恋人宣言で、仕事が減ることも覚悟の上でした。
　しかし話題を呼び、時代の流れか逆に仕事は増えてしまい、グラドルの他に一般のモデルの仕事も入り始めたのでした。
「何しろスケジュールがびっしりと埋まってるから休みなんてあってないようなものだよね。モグラ女子街道へ突入してしまった」
「モグラ女子って、初めて聞いたときはびっくりしたけど、女性向けのファッションモデルと男性向けのグラビアの両方で活躍するモデルのことなんだね」　
「それでも暇よりはマシだけど」
「……そうかな。おかげで理緒ちゃん共々、スケジュールがとんでもないことになっているけど」

　それでも調整期間で2日ほど休みができ。
「冬キャン体験だって！　紗月、行ってみようよ」
「テスト明けの息抜きにもなりそうね」
　理緒の一声で、二人は九夜山のイベントへ遊びにやって来ました。
　パンフレットを手に、理緒は目を輝かせます。
「日帰り冬キャン体験って、何をするんだろ？」
「最近流行りみたいだね。理緒ちゃんが好きそう」
「飯盒炊爨でもするのかな」
　そんなことを話しながら歩いていると。
「あ、理緒さんと紗月さんだ！」
　学生たちが声をかけてきました。
「あの、僕たち映画研究会の者なんですけど、映画に出てもらえませんか？　ちょっとだけでいいんです！　お願いします！」
　映画研究会の人たちに拝み倒され、理緒と紗月は顔を見合わせました。
（──なにしろ人気グラドルだもんね、あたしたち──）
「しょうがないなあ。今回だけ特別にノーギャラで出ますね」
　というわけで、『雪の山荘殺人事件！』の撮影に軽く参加することになったのでした。

「で、エキストラと言ってもどんなことするんだっけ？」
　のんきに考えていましたが、渡された台本を見ると。
「あ、一応台詞付きの役なんだ。紗月と一緒に『死体の発見者』役かあ」
「悲鳴を上げればいいのね」
「一世一代の名演技、見せてやろうじゃない」
　
　合図と共に、理緒は演技をスタートします。
「あれ、あんなところに何か気配がする……こんなところに人が……？」
　理緒と紗月は雪だるまに近づくと、そこから人の手と首が出ていました。
「……って、死んでる！？」
「きゃあああああ！！！」
　紗月が本気で悲鳴を上げ。
「カット！　真に迫ってましたね」
　一発OKとなりました。
「……これ、大丈夫なんですか？」　
「大丈夫です、作り物ですから。では次の場面行きます」　
「よかった……」
　ほっと胸を撫でおろす紗月でした。

「第一発見者はあなたたちですね」
「はい……」
「まさかあんなところに……人がいるなんて」
　事情聴取を受けているシーンを撮影して、一応終了となりました。
「なんか仕事してるみたいになっちゃった。もしかしてこれで女優の仕事とか来たりして？」
　理緒の言葉に紗月はくすりと笑いました。
「まさか、それはないと思うよ」

このページにイラストを設定する