LIQUID -Star Chronicle-　狂乱の炎編｜リアクション

LIQUID -Star Chronicle-　狂乱の炎編

【ストーリークエスト『狂乱の炎』（５）】

「リキッド大陸の人々のなかに……月の民が？」
「そう。彼らは支配ではなく、共存の道を選び取ったわけだ」
「……そんなの！」
　ポラリスは立ち上がり、身を震わせた。
　月の民はあらたな故郷を得た。もはや力なき彼らであるがゆえに、共存を可能とした。知らぬ間に彼らはめぐり、そしてリキッド大陸の人々がそれを知ることはないだろう。しかし凄絶な過去を紡いだ英傑の末裔として、ポラリスには受け入れがたい事実であったことだろう。
「そんなの……勝手、すぎる」
「そお？　そうかね。双方に利のある和平の形と思えばいいのじゃあないかね？　戦は終わった。月の民の支配はもはやなく人々は自由を手にした。月の民もまた、種を繋げてゆくことができたわけだし」
　半ば水鏡の女王と同化しているからか、マオメイはあくまであっけらかんとして言ってのけるのみだった。
　ともあれ、全てははるかな過去、とうに成されたこと。覆しようもない、そう。歴史上の出来事だ。
「僕たちがもっとも知るべきことを、まだあなたは語っていないね」
　凛風が告げた。ポラリスにとって感情揺さぶるだろう真実を明かしたマオメイへ、すうと目を細めながらに問う。
「＜大いなる意思＞とは？」
　空将ペトリュスが、殻将シャルルマーニュが、炎将フルミエールが口にした、その言葉。彼らを率い、暴虐へと駆り立てた、何者か。
「知っている、の……？　それが、誰なのか……」
「ああ。うむ。知っているとも」
　うなずいたマオメイの顔はにわかに、歪んだ。苦渋といった表情は、おそらくは水鏡の女王に起因するものと冒険者には思わせた。
「それこそが、女王のただひとつの悔悟。種の安寧を得てなおわだかまる、唯一の心残り……そしてわたしが諸君らへ依頼したい、おそらくは、最後のクエストとなろうか」
　懐からなにか取り出し、卓へ据えた。
　見覚えがあった。戦いの後、うち捨てられていたものを冒険者らが拾い上げ、月の都での再会を経て彼女へと返されたものだった。
　＜太陽の槌＞。
「今度こそ、成さねばならない。脆弱なわたしの手によってではなく、諸君らの手で、あれを砕かねばならない」
「……月の杯！！」
　全ての支流がいま、一本の流れへとより合わされてゆく。
　月の杯。発掘された古代遺物。月の水を媒介し、人の心を縛り操る……モノ。
「かの遺物は月の民が姿を消してより今日まで、失われることなく存在してきた。忠実に、ただひたすらに、主の望みを叶えんがため、自らの機能を全うし続けてきた……そうしてあまりにも長い時のなか、数多の月の民や人々の意思へと浸されてきたがゆえに、遺物そのものが意思を、あるいはそれに準ずるものを宿したのだろう」
　もの言わぬ器物。古ぼけて褪せた鈍色の、三日月のレリーフを刻まれただけの、飾り気もなくみすぼらしい杯はしかし、そのなめらかな口縁にふちどられた見込みへ、禍々しき野望をなみなみとたたえていたらしい。
「あれの望みはただひとつ。自らの得た意思を、月の水を介して伝播し、どこまでも広めてゆくこと。増殖してゆくこと。主の欲したウォーターレルムをあまねく、白瞳の者で満たすまで」
「……止めなくちゃ」
　ソフィアはまなじりを吊り上げて立ち、卓の上のいささかにちっぽけな、しかしずしりと重い鎚を取り上げる。革紐のきつく巻きつけられた柄を、指が白むほどに握り込む。
「杯は今どこに？　知っているんでしょう？」
「ああ、水将ベルモットがいずこへか持ち去った。あやつの自我も、今となってはどれほど保たれているものやら分からぬがね。ま、行き先には見当がつく。わたしが案内しよう」
　冒険者らはうなずき視線を結ぶが、彼らの意思は一点を向いている。
「勝ってみせましょう。必ず……みんなで！」
　時代にうねる荒々しき流れの終着点は、眼前に迫っていた。

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あとがき

担当マスター：墨谷幽
ファンレターはマスターページから！

　墨谷幽です。
　お待たせしました！　『LIQUID』のリアクションをお届けいたします。

　ストーリークエストは佳境へと突入。次回は決戦編となる予定です。
　サイドクエストのいくつかもクライマックスへとつながり、次回がひとまずの区切りとなるかと思います。
　よろしければ引き続き、お付き合いくださいませ～。

　それでは今回もご参加いただきまして、まことにありがとうございました。
　次のシナリオでお会いできますことを、心よりお待ちしております～。
　お疲れさまでした！

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