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Dating? Serious relationship?
――ついこの間までは、廊下を歩いていたら会えたのに。お弁当を一緒に食べることだってあったのに。
校舎から出た柚春は、はぁっと深呼吸をするように鬱々とした気分を空へと吐き出してみた。
「忙しい、か」
彼の担当する３年生は自由登校だけれど、授業を必要とする生徒がいれば課題を作らねばならない。さらに、受験結果が出始めてからというもの、彼は生徒たちから引っ張りだこだ。
進路が定まったからこその人生相談もあれば、結果が芳しくなくメンタルケアを含めた再進路相談が必要な生徒が、彼の元をひっきりなしに訪れている。
その上、顧問として２つの部活や委員会への顔出しに、隙間を縫って新学期の準備だってあるとくれば、休日返上となる日だって少なくない。
だから、ウォルターが柚春との関係を隠すために避けているなんて、これっぽっちも思っていない。
そうは思っていないけれど……つい柚春は、再び深い息を吐いていた。
もう真っ白な吐息はのぼらないし、校庭を囲むように植わっている桜の木には、枝先にいくつもの固く小さな蕾が芽吹いているのが見える。まだ寒々しい色をした木々も、もうしばらくすれば優しいピンク色の海になるのだろう。
３年生を送り出し、新しい季節がやってくる頃には、柚春もひとつ大人になっている。
新入生を迎えて、最上級生になって。17歳にもなれるのだから、やはり春は、大きく変わる始まりの季節だ。
（……それでも、足りない）
悔しさを誤魔化すように鞄のベルトを強く握りしめてみたけれど、柚春の不安は募るばかりだった。
春になっても自分は『寝子高の生徒』で、『未成年』という肩書きを変えることは叶わない。
大人な彼の隣を平然と歩くには、まだまだ足りない部分がたくさんあるのだと痛感してしまう。
（だからきっと……何も、変わらない）
ウォルターとの関係は、確かに変わったはずなのに。
これ以上にはなれないのだという現実と、彼との間にあるかもしれない文化の壁。
それでも、信じたい彼の言葉を胸に、柚春は思い立って体育館の方へと足を向けた。
――ちゃんと、女性として好きだから『今は』付き合えないんだ。
去年の12月。
大切な思い出のある公園で、柚春はウォルターに告白をした。
その答えは、まさかの「いいよ」だったのだけれど……今のところ、２人は恋人ではない。
守らなければならない一線があるから、というのは柚春も理解している。だけどそれ以上に、彼は柚春の視野を、未来を束縛したくはないからだとも言っていた。
ウォルターは、柚春を好きだらこそ大切にするんだと言って、真面目に考えて答えを出してくれたわけだ。
（うん、『今は』それでいい）
いくら純情であれば罪に問われないと言ったって、彼に迷惑をかけたいわけではないし、その境界線を飛び越えてしまえと思っているでもない。
柚春がウォルターを愛しているということを、彼が知ってくれた。
数ある愛の中で、互いをパートナーにと求め慈しむ気持ちは、幼さゆえの憧憬ではないと認めてくれた。
そうと理解した上で、ウォルターは同じ気持ちだと……柚春を好きだと、伝えてくれた。
思い返すだけでも幸せになるあの瞬間が、夢ではない。
口先だけで取り繕うでも、子供扱いして突き放すでもなく、彼が受け入れてくれたのは紛れもない事実。
現に、あれから人目を避けてであれば、愛称で呼ぶことを咎められないし、彼も名前で呼んでくれる。
こっそりと手を繋ぐことも、頬にキスをすることもあるのだから、何も不安に思うことはないはず。
（……だけど）
それでも、柚春は考えてしまうのだ。
熱く騒いだ夏のような恋が過ぎ、哀愁の思いに耽る秋が過ぎ。じっと堪えるはずだった冬を、堪えられないんだと伝えれば、小さな春の訪れが聞こえ始めた。
そう。冬が終われば、春が来る。
だからきっと……どういう形であれ、この中途半端に進んでしまった関係にも終わりが来て、幸せな未来が訪れるはずなのだ。
（変われる、よね？）
季節が巡るだなんて、四季が美しい日本であれば当たり前にも思っていた。
けれど、それでさえ去年より寒さが続く見込みだとか、例年より早い春がとか、その訪れは一定ではない。
だからか、やっぱり柚春は漠然と考え立ち止まりそうになってしまう。
ウォルターとの関係は、どうなるのだろうかと。
今の関係で本当に、ただ約束されたゴールを待っているだけでいいのかと。
……２人に春は、新しい始まりはあるのだろうかと。
校舎から出た柚春は、はぁっと深呼吸をするように鬱々とした気分を空へと吐き出してみた。
「忙しい、か」
彼の担当する３年生は自由登校だけれど、授業を必要とする生徒がいれば課題を作らねばならない。さらに、受験結果が出始めてからというもの、彼は生徒たちから引っ張りだこだ。
進路が定まったからこその人生相談もあれば、結果が芳しくなくメンタルケアを含めた再進路相談が必要な生徒が、彼の元をひっきりなしに訪れている。
その上、顧問として２つの部活や委員会への顔出しに、隙間を縫って新学期の準備だってあるとくれば、休日返上となる日だって少なくない。
だから、ウォルターが柚春との関係を隠すために避けているなんて、これっぽっちも思っていない。
そうは思っていないけれど……つい柚春は、再び深い息を吐いていた。
もう真っ白な吐息はのぼらないし、校庭を囲むように植わっている桜の木には、枝先にいくつもの固く小さな蕾が芽吹いているのが見える。まだ寒々しい色をした木々も、もうしばらくすれば優しいピンク色の海になるのだろう。
３年生を送り出し、新しい季節がやってくる頃には、柚春もひとつ大人になっている。
新入生を迎えて、最上級生になって。17歳にもなれるのだから、やはり春は、大きく変わる始まりの季節だ。
（……それでも、足りない）
悔しさを誤魔化すように鞄のベルトを強く握りしめてみたけれど、柚春の不安は募るばかりだった。
春になっても自分は『寝子高の生徒』で、『未成年』という肩書きを変えることは叶わない。
大人な彼の隣を平然と歩くには、まだまだ足りない部分がたくさんあるのだと痛感してしまう。
（だからきっと……何も、変わらない）
ウォルターとの関係は、確かに変わったはずなのに。
これ以上にはなれないのだという現実と、彼との間にあるかもしれない文化の壁。
それでも、信じたい彼の言葉を胸に、柚春は思い立って体育館の方へと足を向けた。
――ちゃんと、女性として好きだから『今は』付き合えないんだ。
去年の12月。
大切な思い出のある公園で、柚春はウォルターに告白をした。
その答えは、まさかの「いいよ」だったのだけれど……今のところ、２人は恋人ではない。
守らなければならない一線があるから、というのは柚春も理解している。だけどそれ以上に、彼は柚春の視野を、未来を束縛したくはないからだとも言っていた。
ウォルターは、柚春を好きだらこそ大切にするんだと言って、真面目に考えて答えを出してくれたわけだ。
（うん、『今は』それでいい）
いくら純情であれば罪に問われないと言ったって、彼に迷惑をかけたいわけではないし、その境界線を飛び越えてしまえと思っているでもない。
柚春がウォルターを愛しているということを、彼が知ってくれた。
数ある愛の中で、互いをパートナーにと求め慈しむ気持ちは、幼さゆえの憧憬ではないと認めてくれた。
そうと理解した上で、ウォルターは同じ気持ちだと……柚春を好きだと、伝えてくれた。
思い返すだけでも幸せになるあの瞬間が、夢ではない。
口先だけで取り繕うでも、子供扱いして突き放すでもなく、彼が受け入れてくれたのは紛れもない事実。
現に、あれから人目を避けてであれば、愛称で呼ぶことを咎められないし、彼も名前で呼んでくれる。
こっそりと手を繋ぐことも、頬にキスをすることもあるのだから、何も不安に思うことはないはず。
（……だけど）
それでも、柚春は考えてしまうのだ。
熱く騒いだ夏のような恋が過ぎ、哀愁の思いに耽る秋が過ぎ。じっと堪えるはずだった冬を、堪えられないんだと伝えれば、小さな春の訪れが聞こえ始めた。
そう。冬が終われば、春が来る。
だからきっと……どういう形であれ、この中途半端に進んでしまった関係にも終わりが来て、幸せな未来が訪れるはずなのだ。
（変われる、よね？）
季節が巡るだなんて、四季が美しい日本であれば当たり前にも思っていた。
けれど、それでさえ去年より寒さが続く見込みだとか、例年より早い春がとか、その訪れは一定ではない。
だからか、やっぱり柚春は漠然と考え立ち止まりそうになってしまう。
ウォルターとの関係は、どうなるのだろうかと。
今の関係で本当に、ただ約束されたゴールを待っているだけでいいのかと。
……２人に春は、新しい始まりはあるのだろうかと。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2024年04月11日
- 参加申し込みの期限
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- 2024年04月18日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2024年04月18日 11時00分
