もしもの未来の話をしよう｜リアクション

もしもの未来の話をしよう

　愛猫萌々子は木天蓼大学の１年生だ。
　入学してすぐの5月からアメリカへ留学し、今は１か月が経過していた。
　ホームシックなどはない。学生生活は充実し、毎日がとても忙しかった。
　それに、ホームファミリーはとても親切だ。

「モモコ、知り合いに美術館のチケットを貰ったの。今度の休みに行ってみたらどう？」
「えっ、いいんですか？」
「ええ、私たちはいつでも行けるもの。ぜひ日本に戻る前に、アメリカの文化を楽しんで」
　綺麗なウインクで微笑んだホストマザーに感謝を述べて、チケットを受け取る。
　２枚だ。留学チームの誰かを誘おうか。
　日本にいるときならば、真っ先に先輩を誘っただろう。

「……先輩は元気にしているでしょうか」
　自室に戻り、机の前に座ってほうっと息を吐く。
　引き出しを開け、中にしまった写真をとりだした。
　おっとりと笑みを浮かべる彼を見つめる。
　便りがないのはいい便りというから、きっと猫と楽しく過ごしているのだろう。
　その様子を想像し、萌々子はふふふと微笑んだ。
「そういえば、昨日お兄様に会いに行ったとき、偶然猫を見つけたんでした。先輩に、あの子の写真を送りましょう」
　パソコンを立ち上げて、メールソフトを起動する。
　それからちょっと考えて『先輩へ』と入力を始めた。

『先輩へ
こんにちは、日本は梅雨の時期でしょうか。
私は今ホームステイ先でメールを書いています。
お世話になっている家族のみなさんにも親切にしていただいて、こちらの生活にも大分慣れてきました。

お兄様が住んでいるアパートも近くにあるので、たまに一緒にライブハウスに行ったりしています。
たまに懐かしくなって日本食を食べにレストランに行くのですが、何か違うと思うものが出てきてしまったり……。』

　ここまで入力して、兄と食べた寿司のことを思い出す。
　日本のものと似ても似つかぬそれは微妙な味で、萌々子は思わず首を傾げた。
　だが先輩がいたならば、彼はきっと楽しく笑ったのだろう。
（しっかり勉強して帰って、あの笑顔を見たいです）
　そう思いながら、萌々子はまたキーボードを打ち始める。

『私が留学を決めたことを話した時、応援すると言ってくれてとても心強かったです。本当は引き止めたい気持ちもあったのに全部我慢してくれて、私の方が泣きそうになりました。
今期のマタ大留学チームの中でもトップの成績をおさめて帰国します。それぐらいの気持ちでないと先輩にも申しわけがたちませんから。待っていてくださいね』

（日本に着いたら、真っ先に先輩に会いに行きましょう）

『前にもお伝えした通り、3か月のカリキュラムが終わった7月に日本へ戻る予定です。
詳しい日時が決まったらまた連絡します。お元気で。』

　読み直してから、猫の写真を添付して、送信ボタンをクリックした。
　日本に戻るまであと２か月。
　写真をもう一度見つめた後、萌々子はそれを、丁寧に引き出しの中へとしまった。

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