「カレーにしようかな」
「私も」
　全力で百人一首をしてかなりお腹がすいたので、蒼と詠美は食堂でお昼を食べた。
「次何をしようか？」
　カードに見立てたチーズが乗ったカレーはなかなか美味しい。
　食べながら考えていると、
「これ、この前やったよね？」
　と詠美が見せてきたプログラムに、『エレメンツ＆ドレイクス』の案内があった。
「そうね、私も詠美もエレメンツ＆ドレイクスは一応経験済みだし。百人一首での雪辱を晴らしましょうか」
「行こう！」


　寝子高3年の白 真白は『エレメンツ＆ドレイクス』の会場にやってきた。
　アニメ化もしたエレメンツ＆ドレイクスは、カードゲーム会場の中でも一番賑わっている。
「寝子高でカードゲーム大会ができるなんてね。さーて、頑張っていくよー、対戦よろしくね！」
　真白の姿を見て、一部からざわめきが起こった。
　以前カードゲーム大会で５連勝してMVPを取った真白は、常連の中では有名な存在なのだ。
　誰から行く？　と皆が目を見かわし牽制しあう。
「ふっふっふ、私のデッキが火を噴くよ」
　使うデッキは木属性と地属性のクリーチャーを使ったデッキだ。
　能力で相手のクリーチャーは破壊して自分は墓地からクリーチャーをよみがえらせて戦う。
「私のターン！　うん、今日も絶好調！」
　真白は次々と相手を倒し、余裕の勝利を続けた。

　
　そこへ食事を終えて蒼と詠美がやってきた。
「私のデッキは……火と土で行こう」
　という蒼の隣で詠美は、
「水と木でいくわ」
　と鼻息を荒くしながらデッキを組んでいる。
（あれ、見たことないカードがある……というかむしろどこかで見たようなクリーチャー？）
　蒼がそのカードを手に取った時。
「あっ、蒼ちゃん」
　真白が蒼を見つけて声をかけてきた。　
「真白ちゃん」
　真白と蒼は、終業式の夏休みをかけたゲームで一緒に『タカシの果たし状』のRTAで競い合ったことがある。
　カードゲームでは圧倒的な強さを誇る真白だが、未経験のゲームで健闘するも惜しくも３位だった。
　その時２位だったのが蒼である。
（まあそれはそれだし、これでリベンジするつもりとかはないんだけどね）
　と白は思いつつも。

　真白と蒼の眼差しが熱く交差した。
「やろうか」
　真白が言い。
「お願いします」
　蒼が応じる。
　勝負に理由はいらなかった。

　残された詠美は会場を見渡し、２０代の男に声をかけた。
「対戦お願いします」
「僕は零式まさと。可愛らしいお嬢さん、よろしく頼むよ」
「宮内詠美。こちらこそよろしく」


　真白と蒼の対戦が始まった。
　先攻は蒼。
「私のターン！　ドロー！　ゴーレムキング召喚！」
　火のクリーチャーフレイムドラゴンの火力と土のクリーチャーゴーレムキングの打撃力＆防御力を駆使して攻守両面でのバランスを取ろうという作戦だ。
　真白も強気に攻めていく。
「私のターン！　ドロー！　土属性のマナを一枚。冥土龍中西を召喚」　
（ガンガン攻めてくる相手は、適時除去して受け流していけばいいから得意だよ）
「フレイムドラゴン召喚！」
　蒼も健闘したが、真白は粘り強く戦い、盤面をコントロールしていく。
「私のターン！　お、いいの引けた。墓地の冥土龍中西を蘇生して、そっちのクリーチャーを破壊！」
（強すぎる……）
　打つ手がなくなった蒼だが、諦めるわけにはいかない。
「私のターン！　ドロー！　……！」

　その時、山札の中で眠っていた巫部 紫苑が白日の下に引き出された。
『あれ、出番ですか……何か分かりませんけど頑張りますよ！』
　蒼は宣言する。
「豊穣のサキュバス召喚！　冥土龍中西を吸収！」



『いただきます』
　よく分からないままカードとして奮闘する紫苑。
「えっ？　そんなカードが？　なかなかやるね、でも負けないよ」
　目を丸くした真白だが、その戦意は衰えることがなかった。
（隙を狙って一撃で倒しに来るようなカードじゃないなら、まだまだ余裕だよ）
　次のターンで、豊穣のサキュバスは墓地へと飛ばされた。
「さぁ、今度はこっちが攻める番だよ」
　真白の攻撃が決まり、蒼のライフは０となった。
「やった！」　
　勝利を満喫しながら白は思う。
（あのカードのキャラの顔、見覚えがあったなあ。……私もカードになってみたかったかも）


　会場の片隅で、紫苑は我に返った。
「あら……元に戻りましたね……ふぅ、あのままだったらご飯どうすればいいか分からなかったから助かりましたぁ♪」
　何故か服装はセクシーなクリーチャーの時のまま、元の服は綺麗に畳まれて近くに置いてある。
「はて、服はそのままですね……まあ、後で着替えるとして、今は他のカードゲームも見て回りましょうか♪」
　元の服を回収した紫苑は、花札を見に行こうとしたが。
　セクシーな衣装は周囲の注目を一身に集め、風紀委員に声をかけられることとなった。
　花札で連勝していた青年が紫苑の姿に見とれて札を取り落とし、ノーゲームとなったらしい。
　

「……負けました」
　詠美は悔しさを隠そうともせず言葉を震わせた。
　水のクリーチャー（カリュブデス）の何もない空間に渦を発生させてその中に溺れさせるという能力と、木のクリーチャー（デビルプランツ）のステルス＆特殊攻撃（蔦や枝で相手をとらえ絞め殺す）で、攻撃型の展開に持ち込んだが、相手は何枚も上だった。

「相手が強すぎたよ」
　蒼はそう慰めたが、詠美は納得できない顔をしている。
「また強くなってリベンジしよう」
　蒼がかけた言葉は、自分自身にも言い聞かせていた。