【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ｜リアクション

【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ

◆闇ポーカー

　真境名アリサの勤務する水着ガールズバー「ジュエル」は、設備の定期メンテナンスのため本日休店となった。
　副店長として立ち会うんじゃないかと予定を開けておいたのだが。
「今日は休んでくれ」
　オーナーが来てくれることになったので人手が足りると、店長から連絡があった。

「それならこちらもメンテナンスをさせてもらうわ」
　というわけで午前中、アリサは寝子島スポーツセンターへ向かった。
　ジムで水泳とマシンエクササイズを計２時間ほど。
　それらを終えてシャワーを浴びて汗を流し、着替えてウォーキングで適当に街をぶらついて、寝子高の前を通りかかると。
「カードゲーム大会、いかがですか？」
　と声をかけられた。

「高校でカードゲーム大会ねえ……暇つぶしになるし参加してみようかしら」
　自分の学生時代はそんなものはなかったはずだけど、時代の流れだろうか。
「あ、でも百人一首は伝統的ね」
　懐かしく思いながら、かるた大会をしばらく見物した。

「参加するならカードゲームの部ね」
　トランプや花札、TCGなどをやっているのを見て、いくつか軽く遊んでみた。
　こんなものかしら、と少々物足りなさを感じていた時、聞こえてきた言葉があった。
「そういえば闇ポーカーも開催されてるという噂だったね」
「闇ポーカーはルールが違うんでしょうか？」
　そちらを見ると、何やら鋭い視線を会話の男女に向けている男がいた。
　仕事柄、怪しい視線というのはなんとなくわかる。色気がらみでなくてもだ。　
　それで、それとなく闇ポーカーに興味があるアピールをすることにした。
「妖しい燃えるゲーム……やってみたいわね。資金は十分あるんだけど」
　さりげなくそぶりを見せると、これまたさりげなく誰かが近づいて来た。
　見なくても、さっきの男だ、とわかった。
『振り返らず目立たないように、そこのトランプのマークの布の脇へどうぞ』　
　指示に従って移動すると、布が開き、一瞬のちにアリサは隠し部屋に招き入れられていた。

　そこは、学生たちが健全に楽しんでいるさっきまでの場所とは別世界だった。
　赤いじゅうたんが敷かれ、高そうなテーブルや椅子が並んでいる。
　黒服のボーイたちがチップの山を運んでいた。
（いかにもって感じね……こういう雰囲気、好きだよ）

　そんなわけでゲームを始めた。
「コール」
　ピリピリするような駆け引き、きわどく相手を上回る役を作り上げた時の快感。
　瞬く間にチップの山が積みあがる。
「確かにギャンブルは中毒性あるわ」
　
「あなた、いい勝ちっぷりね」
　桜栄あずさが声をかけてきた。
「よかったら勝負しない？」
　断る理由はなかった。
　あずさとアリサの勝負が始まった。
「ベット、５００」
　アリサのチップ額に、あずさが反応する。
「レイズ、７００」
「コール、７００」
　アリサも合わせて額を上げた。
（向こうもかなり強いわね）
　はったりでないのはその表情と手の動きでわかる。
「ポーカーって、これだからやめられないのよね」
　内から燃えてくる熱に、アリサは唇をなめた。

　息詰まるような駆け引き、一進一退の末。
「ショーダウン」
　ディーラーの声を受けて、アリサは手を開けて見せる。
　ハート５枚のフラッシュだ。
　あずさはにっこりと手を開く。
「フォーカード」
「……！」
　アリサは次に向けて気持ちを切り替えようとする。
　この程度で負けてなるものか……
　
　結局、山と積まれたチップは消え失せて、アリサはツキに見放されたことを悟った。
「楽しかったわ。またやりましょうね」
　あずさは悠然と微笑みを浮かべ去ってゆく。
（この次はリベンジしてやるわ）
　そう誓いながら、アリサは闇ポーカーを切り上げたのだった。

　

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