【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ｜リアクション

【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ

■百人一首の部

「智依子さんも一緒にやろうよ」
　と誘ってもらって、寝子高１年の梓智依子はクラスメイト２人と一緒に百人一首の試合に出ることになった。
「楓！　おじいちゃんとおばあちゃんも」
　ギャラリーの中に５歳の娘の楓と祖父母を見つけ、智依子は微笑みかけて手を振る。
「ママー、がんばれー！」
　楓は元気よく応援してくれて。
「楓ちゃん～！」
　時々楓と遊んでくれるクラスメイトたちも、楓に笑いかけて手を振ってくれた。
「おねえちゃんたちも、がんばれ～」
　楓の応援にクラスメイトたちはさらに相好を崩してくれた。

　寝子高の１年生である仙藤蒼は、友達の宮内詠美と一緒に参加することにした。
「一人足りないんだけど……」
　蒼がつぶやいているうちに、詠美が通りすがりの水泳部の先輩を引っ張ってきた。
「後輩に頼まれたらイヤとは言えないね」
「野々先輩、よろしくお願いします！　頑張りましょう！」
「あんまり得意じゃないけど、頑張るね！」　
　野々ののこはそう言って笑顔を見せた。
（詠美、燃えてるわね……まあ、この子はやたら負けず嫌いだもんね。
それはいいんだけどもう少し冷静さってものを身に着けてほしいな）
　そう思う蒼である。

　智依子のチームと蒼のチームの対戦が始まった。
「ママー、がんばれー！」
「ののこー、がんばれー！」
　ギャラリーには野々ととお理事長もいて、応援の声を上げている。
　応援は五分のようでいて、ののこが喜んでいないのであまり効果はない。

　永田孝文先生が札を読み上げる。
「ひさかたの　光のどけき春の日に　しずごころなく……」
　智依子は読み上げられると同時に身体を反応させて、瞬時に札を取り上げた。
「すごい、智依子さん！」
　クラスメイトたちは感嘆の声を上げた。
　ダンサー時代の敏捷性と集中力は今でも健在だ。

「ちはやぶる　神代もきかず竜田川　からくれないに……」
「はい！」
　詠美がすごい勢いで突っ込んだ。
　やる気だけは負けていない。
「ナイス！」
（私も負けてられないわね）
　蒼も気合を入れて札を見つめる。
「天の原　ふりさけ見れば春日なる　三笠の……」
「はい！」
　今度は蒼が取った。

（よし、行けるわ）

　勝負は接戦にもつれ込んだ。
　智依子のチームはクラスメイト２人も頑張っている。
　対して、蒼のチームは詠美は勢いはすごいもののたまにお手付きをしたりするし、ののこに至ってはたまに取れたと思ったらお手付きという状況だ。
（冷静に、冷静に……）
　ヤマを張りつつお手付きは避けて、蒼は着実に札を狙っていく。

　ついに札を取り切って、取った札を数え始める。
　ドキドキしながら数えていたが、わずかな差で蒼のチームの札が尽きた。
「やったー！」　
　クラスメイトは大はしゃぎしているが、智依子は周りより3歳年上と言うこともあって、落ち着いた様子で微笑んだ。
　娘の楓と目が合い、片目をウィンクしてサムズアップする。
「ママー、すごーい！」
　楓は飛び上がって喜んでいる。
「ああ、もう！」
　と思い切り悔しがる詠美を、蒼はののこと一緒になってなだめる。
「勝負は時の運よ。次は頑張りましょう」
「惜しかったねー。負けちゃったけど、楽しかったよね！」
「……うん」
　
「ののこぉー！　残念だったな……」
　ギャラリーで騒ぐととお理事長とは目を合わせないようにする蒼たちだった。

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