【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ｜リアクション

【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ

　寝子高２年の稲積柚春は、考えていた。
（学校行事ならワットも監督で忙しいかな？　勝負ができそうなら挑んでみたいけど）
　難しそうなら最後に片付けの手伝いを申し出て、一緒に居られたらいいな、と思っていたが。
「ウォルター先生？」
　当たり前のようにウォルター・Bは、一般客に紛れてトランプの会場にいた。
　柚春はトランプをモチーフにした服を着ているが、差し色や袖のボタンや靴下には、ウォルターの瞳の色が使われている。
　そしてウォルターの服も同じように、柚春の瞳の色の藍色が差し色になっているのだった。
「……ウォルターさんは試合の監督とかしないの？」
「町の行事になったから、人手は足りてるみたいだねぇ」
「それじゃ、勝負できるね」
「稲積は何をやりたい？」
　あたりを見回しながら、柚春は何のゲームにしようか考えた。
（カードゲームもワットは強そうだから、真っ向勝負より楽しんでできる物がいいな）
　確か数字は暗号にもなったはず、と思いつく。
（冬休みにテレビで見た映画で、数字でメッセージを送り合っているシーンがあって、色々と調べてみたんだ。三年生になってウォルター先生の授業を受けられるようになったら提出するノートに書いてみようと思ってたけど、まさかこんなに早く使う機会に恵まれるなんてね）
「それじゃ、ポーカーで勝負しよう」
「ニヤニヤしてるね、何か企んでいるのかなぁ」
　ウォルターに言われ、慌てて顔を引き締める。
「別に……」

　柚春は配られたカードを見る。
（1・4・10・7・9……）
　模様も数もバラバラだ。
（セオリーなら９と１０を生かしてストレート狙いだろうけど）
　迷わず柚春は７と９を捨てた。
（ポケベル時代には「あいしてる」の語呂合わせで使われた1・4・10・6。６、来い！）
　気合を入れて引くと、柚春の願いが通じたか、カードは６と１だった。
（やった！　1・1・4・10・6！　ポケベルの「あいしてる」の語呂合わせは1がふたつになるケースもあるらしいし）
「おや、いいカードをひいたのかなぁ」
　ウォルターがいたずらっぽく笑う。
「ロイヤルストレートフラッシュなんかより、すっごく強いカードが揃ったよ！」
　柚春は宣言したのだった。
「それじゃ、これで勝負だ」
　ウォルターの言葉に、柚春は手札をオープンした。
「1・1・4・10・6！」
（誰に聞かれることもないから堂々と……ワットは気付くかな？）
　ドキドキしながらウォルターの顔を伺うと。
「ふうん、いいカードだったね」
　そう言いながら手札を開けるウォルター。
「8・3・1・4・3……！」
　柚春は息を呑んだ。