【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ｜リアクション

【カード】ちはやぶる神の札引く大いくさ

　寝子高２年の有沢茉奈は、彼氏の閑野カノンと一緒に百人一首に参加した。
「百人一首か。授業でもやってるってすごいね」
　木天蓼大学に通う大学生であるカノンは、日本人の父親とフィリピン人の母親の間に生まれた絵にかいたようなイケメンだ。
「カノンと二人なら楽勝だわ。頑張ろうね！」
「ああ」
（もう一人の子は……誰だっけ？）
　そのくらいに彼氏のことしか見えない茉奈だった。

「カノン、めっちゃ取るの早いんですけど！」
　試合が始まり、想像以上のカノンのかるたを取る速度と正確さに驚く茉奈。
「茉奈ちゃんも反応がいいよ」
「そうでしょ？　あたしたちのラブラブパワーが炸裂して、恐ろしいほど連戦連勝ね」
　完全にノリにノッてノリまくりの茉奈。
「油断せずにいこう」
　だがカノンのほうはいたってクールだ。
（そこがまたあたしのハートをときめかせるというか！）
「あたしたちの愛にかなう奴なんていない！」
　うっとりしつつ、茉奈は宣言するのだった。

「おととし入試前に、かるた大会の見学に来たことがあるのよ」
　水上桜は、彼氏の滝沢匠にそんな話をした。
「熱心だったんだな」
　匠は桜と同じ２年生だが、木天蓼工業高校に通っている。
「というより、入試が不安で仕方なかったの。本番に弱かったから……でも先輩たちが楽しそうで、やっぱり寝子高に来たいと思ったわ」
「合格できてよかったな。……ところで、三人一組なんだろ？　もう一人は？」
　尋ねる匠に桜は答える。
「ランダムで組めるから大丈夫」
　というわけで同じ学年の男子がやってきたが。
「……えっ？　マタ工生なの？　ぼ、僕お金ないので！」
　明らかに怯えた様子で後じさりした。
　マタ工といえば不良、というイメージがついてまわってしまっている。
「カツアゲなんかしないよ、滝沢君は真面目なマタ工生だから」
「……そうなんだ？」
　桜の説明にも半信半疑な様子だったが。
「……よろしく」
　手を差し出した匠とおずおずと握手し、どうにか落ち着いてくれた。

　試合が始まると。
「村雨の……」
「はい」
　匠の反応の速さに桜は驚いた。
（滝沢君、意外に百人一首のことを知ってるんだ）
　桜も負けじと札を取り、匠と二人でほとんどの札を手にした。
　もう一人の子も頑張ってそこそこ取ってはいたが。

　桜は試合後聞いてみた。
「さっき、すごかったね。村雨の句を一瞬で取ってた」
「むで始まる句は一つしかないからな」
「詳しいのね」
「国語は得意な方で古文は割と好きな方だ」
「へえ、滝沢君は古文得意なんだ。私は現代文の方が得意かな」
　桜はなんだか嬉しくなった。
「茉奈たちも順調に勝ち進んでるみたい」
「なら、そのうち当たるかもな」

　そして、次の対戦相手はなんと──
「桜と滝沢君？」
「茉奈たちと当たるとはね」
　友人たちと顔を合わせ、茉奈は驚いた。
（できすぎというかなんというか）
　だが、ふとひらめいた。
　突然茉奈は片手を腰に当て、もう片手で桜たちにビシッ！　と指さして、言い放った。

「いざ尋常に勝負！」
「え？」　
「茉奈ちゃん？」
　カノンが戸惑いの声を上げる。
　桜にしても驚いていたが、とはいえ勝負となればやるしかないわけで。
「負けた方が今度のＷデートでおごるのよ！」
　一方的に宣言した茉奈に、不敵な笑みを向ける。
「望むところよ」
「まあ返り討ちだけどな」
　桜と匠も、やる気満々で答えた。

　勝負が始まった。
「しのぶれど　色に出にけり　わが恋は　も……」
「「はい！」」
　カノンと匠がほぼ同時に手を伸ばす。
「さすがカノン！」
　茉奈がドヤ顔をする。
　わずかに届かなかった匠は悔しそうだ。
（次は負けないわ）
「あひ見ての　のちの思ひに　くらぶれば　む……」
「「はい！」」
　次は茉奈と桜が札へと突っ込んでいく。
「やった！」
　今度は桜が笑みを浮かべ、茉奈が唇を噛む。
　一進一退どころか混戦気味の、完全に茉奈、桜、カノン、匠の４人の戦いが繰り広げられた。

　結果は──
「やったー！」
　わずかな差で、茉奈とカノンの組が勝利したのだった。
　大喜びする茉奈と、微笑むカノン。
「……惜しかったな。よくやったと思うぜ」
　匠の言葉に、桜は悔しさを顔に出すまいと笑顔を見せた。
「もうちょっとだったね」
「この次は負けないよう頑張る」
　その真剣な横顔に、桜はしばし見とれた。

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