君の音は何色で描く｜リアクション

君の音は何色で描く

　冬の夜空には明るい星が多い。
　ふと見上げた先にも、いくつもの一等星が輝いていて、シオ・レイゼルオークは目線で星々を結び始めた。
　特徴的な並んだ星を見つければ、それを囲むように結べるオリオン座にはベテルギウスとリゲルが。左下方向にはこいぬ座のプロキオンと、おおいぬ座のシリウスがすぐに見つかる。
（今の時間なら……）
　そっと冬の大三角形に右手を掲げれば、自然と左手は北の空へ。ちょうどその手は、柄杓によく似た北斗七星を掴むようになって、思わずシオは笑みを零す。
「星が掬えたら、何をしようかな？」
　小瓶に詰めてテーブルに置き、まさしく星明かりの下で読書をするだっていい。ちょっと強すぎるようであれば、かまどに詰め込めばコンロ代わりになるだろうか。それなら逆に、弱い灯りの物であれば、氷と一緒にグラスにいれてキラキラ輝かせるドリンクにするのも楽しそうだ。
　さすがにそれが夢物語であることはわかっているけれど、シオは夜空を掴むように手を伸ばし――慌てて、握りしめた。
　もう見頃も終わったはずの、しぶんぎ座流星群の名残だろうか。ひとつだけ流れ落ちた星は手をすり抜けることなく止まったので、シオは子供のようにドキドキとしながらその手を胸の前で開いてみる。
　手の中には、頭を抱えてガクガク震える子供がいた。
　ちいさな、ちいさな。濃紺を基調とした洋服に光る靴を履いて、まるで季節外れの蛍のようだけれど。
「……もしかして、星なの？」
　迷子、というより、先ほど掴み取ってしまった星に思えて、シオは目線を合わせるように手を上げて覗き込む。子供はキョロキョロと周囲を見渡すと、大きなシオに一瞬驚いた物の、すぐに人懐っこい笑みを浮かべた。
『ねぇ、さっきの！　素敵なアイディアは、きみだよね？』
「アイディア？」
　涼やかなウィンドウチャイムのようにキラキラとした音が、何故か言葉に聞こえる。羨望の眼差しを向けられるようなことは考えていなかったはずだけれど、先ほどまで考えていた星を使ってしたいこと、だろうか。
『きて！　やってみせて！』
　飛び上がった子供は、言うが早いか空を駆け出してしまう。シオは慌てて追いかけ、九夜山方面にある洞穴のひとつに飛び込んだ。

「これが……洞穴の中？」
　教室より少し狭いくらいの開けた場所は、壁面いっぱいにブルーアベンチュリンが輝いていた。
　先ほど出会った子供の仲間と思しき子らが、必死に部屋の隅にガラクタを積み上げ、何かを画策しているのも見て取れる。
　星々に囲まれたかのような空間にわくわくしてきたシオは、そっと壁面に触れてしっかりとイメージをしてみた。
「道案内がなければ、ここへ来るのは大変だろうから……休憩所、ううん喫茶店がいいかな」
　持ち寄った食べ物を口にするのもいいけれど、ここでしか出せないメニューがあれば良さそうだ。
　ひとそれぞれに性格があるように、星にも特性があるだろうか。
「テーブルは大小揃えて、どんなお客様も招待できるように。洞穴の奥だから温かいシチューと、それから……びっくりする飲み物と」
『きらきらのやつ？』
　ひょいと肩に止まった子を見て、くすりと笑う。光る靴を身につけているのだから、それくらいでは驚いてはくれないだろう。
「もっとびっくりさせようか。しゅわしゅわでパチパチな、口の中で大暴れしちゃうようなの！」
　振り返れば、思い描いていた内装が整っていた。
　星を詰め込んだランプが天井を飾り、どんな種族が迷い込んでも対応できそうなテーブル。それから奥には、シオに誂えたかのようなサイズのキッチン。
　石窯の中ではギラギラと熱そうな星がきらめき、戸棚の中で静かに輝く星は冷気を放ち、ナッツやハーブの小瓶が並ぶ場所にあった小さな欠片は、口に含めばパチパチ弾けてるキャンディだ。
　他にはどんな星があるのだろう。あちこち観察すれば想像力がかき立てられて、素敵な場所のお礼にとシオは子供たちに料理を振る舞って、賑やかな時間を過ごした。

　……はず、なのだけれど。

　ふと顔を上げると、自室の机で寝ていたらしい。
　そういえばプラネタリウムを楽しめるルームライトをつけて、そのままうとうとしてしまったような気もする。
（さすがに星を使った喫茶店なんて……ん？）
　伸びをひとつして、見覚えの無いペンダントを机の上に見つけた。濃紺の中に星雲を包んだかのようなこの石は、夢の中の喫茶店で壁面にあったブルーアベンチュリン。
「……お土産、かな？」
　そうであればいいなと苦笑して、手に取ってみる。
　もう１度行けたなら、もっと喜んで貰える料理を振る舞おうと、考えておくのも面白そうだ。

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