異世界浸食！『焚書官かく語りき』｜リアクション

異世界浸食！『焚書官かく語りき』

　試したい事があるの、と紫は言った。
「三毛澤君が創作の話をしたいなら、猫田爪彦が作品を通じて言わんとした事を指摘して、創作に立ち返ってもらえないか訴えてみるわ」
「じゃあ、攻撃の中心は三毛澤と紫で行こう。俺と八村は三毛澤の支援で、蒼と響は紫を守るんだ」
　ラッセルの言葉に、一同は頷いた。
「待たせたな、ボスとやら！　いざ、尋常に勝負！」
　蒼留人の声を合図に、一斉に動くのは敵も同じだ。
　縦横無尽の鎖はその重量を叩き付け、隙間を縫うように包帯が忍び寄る。
「くっ！」
　蒼は危ういところで包帯を切った。
「『虜囚列車』は一見すると、友情と喪失の物語のように読めるけど、あなたの意図は別の所にあるのよね、猫田爪彦さん！」
　紫の声に鎖と包帯が一瞬止まる。すかさず八村が軍刀を掲げた。
「錨よ、留めよ！」
　黒いもやに包まれた鎖は、目に見えて動きが鈍る。
「サンキュー、八村！」
　ラッセルのチェーンソーがうなり、鎖を切り捨ててゆく。
「あの物語には、友情の温かさがこれでもかと描かれている。例え失っても、その温もりまで無かった事にはならないんでしょ！？　でも猫田さん、あなたの友達はまだ失われていない！　お願い、手を取って！」
　紫は、駆ける三毛澤に迫る包帯を、火炎放射器で焼き払った。
「行ったれ、三毛澤！」
　桜井が背中を押す。
「行け！！」
　蒼と蒼留人が叫ぶ。
「行きなさい、三毛澤君！　旭日の輩、盤根錯節を焼灼せよ！」
　八村の魔法が猫田に肉迫する三毛澤の拳に宿り、まばゆく輝く。
「猫田さん！　文芸誌に参加できなくて、申し訳ありませんでしたッ！」
　彼は猫田に肉迫し、体を沈め、腰をひねって、輝く拳を振り抜く。
「でも俺、また猫田さんと創作のお話がしたいですッ！」
　直撃した拳が、鎖と包帯を焼き尽くした。
　中から現れたのは――着流し姿の中年男性だ。
「……ごめんよ、勝坊。手間を取らせたね」
「猫田さん、猫田さぁぁん！」
　ぼろぼろ涙を流す三毛澤に抱えられ、猫田爪彦は地面に降り立った。
「君が来てくれて嬉しいよ。年を取ると、『寂しい』が言えなくなっていけないねぇ……じゃ、また後で」
　そう言うと、猫田は光に包まれ――残ったのは一冊の本。
　紺地の表紙には、『虜囚列車』というタイトルが金の箔押しで書かれていた。

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