異世界浸食！『焚書官かく語りき』｜リアクション

異世界浸食！『焚書官かく語りき』

　護送列車の最先頭、機関室。
　辿り着いた蒼留人たち６人は、突然の闇に身構えた。
　入ってきた扉は消失し、上には見渡す限りの星空。
　雲が晴れ、月があたりを照らした時、“それ”は現れた。

　――何故、裏切ったのだ。

　周囲を蝕むような、低くひび割れた声。
　一見すると包帯と鎖の塊なのだが、目が慣れると、膝を抱えた人間が宙に浮かんでいると分かる。

（……なんだ、この感じ？　後ろめたい？）

　突然、蒼留人はルームメイトを思い出した。同じ同好会に所属する親友の顔を。

（俺は裏切ってなんかない。別に、お前を差し置いて彼女と仲良くしてるわけじゃ……）
　
　親友は不実をなじるので、蒼留人も言い返さざるをえない。

（お前が忙しいって同好会に来ないから！　彼女を一人で放っておけないだろ！）

「いかん！　精神攻撃か！？」
　蒼留人が刀を抜いて一振りすると、隣で三毛澤も膝をついていた。
「……猫田さん、やっぱり……俺が誘いを受けなかったのを怒ってるのかな……」
「あれが猫田なのか？　しっかりしろよ、三毛澤！　お前が知ってる猫田はそんな奴じゃなかったんだろ！」
　ラッセルは三毛澤を叱咤し、紫が教えてくれたあらすじを思い返す。

　――『虜囚列車』の主人公は研究職だったのだけど、無実の罪で逮捕され、親友が自分の犯行を証言したと言われて愕然とするの。親友が裏切った動機はね、自分よりも主人公の方が学会で評価されたからよ。実績は同じくらいだけど、家柄で＋評価がついてしまってね。研究で遅れをとったのならともかく、努力ではどうにも出来ないことで負け続けるなんて、耐えられなかったんでしょうね。結末で、主人公は何とか身の証を立てられたんだけど、失われた友情は元に戻らなかったのよ。　

「精神攻撃……？　なら、猫田爪彦が裏切りだと思っているのは、弟を亡くした三毛澤君が詩作から遠ざかり、文芸誌への誘いも断ったこと、かしら」
「えーっ、でもそれって仕方なくない？　家族を亡くしたら、元気なんて」
　仙藤姉妹は、立ち直った蒼留人の横で猫田を警戒。
「だからこそ、重ねて誘えなかったんだろうな。親友なら、三毛澤がどんなに弟を大切にしていたか、知っていた筈だ」
「はい。弟が喜んでくれるから、詩を作ったんです。病気に障るから外の物は持ち込めないし……俺が見た、きれいなものを言葉で描いてみようって。猫田さんはいろんな助言をくれました」
　蒼留人の言葉に三毛澤は頷いて言った。
「えぇ、私は知っていますよ。君は本当に一生懸命でした。……だから、今度は君自身のしたいことを考えてみませんか？　ここにいるのは皆、君を助けたいと望む者ばかりですよ」
　八村の言葉に、ラッセルは激しく、紫はゆっくり頷いた。
　蒼は笑顔で手を振り、蒼留人は無言で刀の柄を叩いた。
「俺、もう一度猫田さんと創作の話がしたい」
　確固たる三毛澤の言葉に、ラッセルはぱん！　と自分の顔を叩いた。
「よぅし、やるこたぁ決まったな！」
　刀の柄に手をかけ、蒼留人は猫田を見つめた。
「道は俺たちが切り開こう」
　

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