異世界浸食！『焚書官かく語りき』｜リアクション

異世界浸食！『焚書官かく語りき』

「……あら？」
　仙藤紫は灰色の摩天楼がそびえる見知らぬ都市にいた。
　しかも、着ているのは黒灰色の地に真っ赤な縁取りの詰め襟制服だ。
　明日始まる大学に備え、早めに寝ようと着たパジャマではない。

（それに、手に持ってるこれ……火炎放射器なの？　なんでこんな物騒なものを）

「おい、そこのあんた！　見ない顔だな。所属と階級を教えてくれ」
「えっ」
　きょろきょろしながら歩いていると、同じ制服を着た男性に呼び止められた。
「最近、我々焚書官を装った本泥棒がいるらしくてな。怪しい奴は調べているのだ」
　無論、所属と階級など無いのだが……正直に言ったら連行されそうだ。
　どう言い逃れようと思ったとき、助け船がきた。
「おい、階級章の受理がまだだろ。指導教官の俺がどやされるじゃないか」
「えっ！？　は、はい」
　紫がウルフカットの少年について行こうと決めたのは、彼が密かに寝子高の校章を見せてくれたからだ。
　どうも、ここはいつもの――寝子島のピンチらしい。
「あ、あなたは響蒼留人さん！　最近イフリート級に昇進した特務課のエース！　薄い本を焼く様が鬼気迫るともっぱらの評判の！」
　男性の最敬礼に、少年――蒼留人のこめかみが引きつったように見えた。
「彼女は俺が担当している新人なので、連れて行きますね」
　そそくさと立ち去り、路地裏へ。
「あの……響君。薄い本って、どういう……」
「わ、忘れて下さい！」
　蒼留人が頭を抱えた所で、テオがすたすたと近寄ってきた。
「おう、お疲れさん。これで全員だな。場所を変えようぜ。詳しい話はそれからだ」

◆

「お、お姉ちゃん？」
「蒼……その格好は？」
「よくぞ聞いてくれました！　この制服は『焚書官かく語りき』のキャラが着ているものです！」
　テオに連れて行かれたのは巨大な図書館だった。
　そこで紫は、同じ制服を着た妹に会ったのだ。何と腰には日本刀が一振り。
「本という本を焼くディストピアで、焚書官を装って密かに本を守る主人公！　しかし全てを救える訳もなく、正体がばれるかは綱渡り！　そして、守った本から文豪の英魂を召喚して共闘できるんです！」
　解説する蒼の横で、ラッセルと蒼留人がふんふんと頷いている。彼らもゲームは知らないらしい。
「八村先生、文豪って何ですか？」
「きわめて優れた文学者、もしくは大作家の事ですよ」
「成る程、猫田さんは自分で文芸誌を創刊するような人だもんなぁ……」
　紫は、テオに連れられて２人の男性が歩いてくるのを見た。
「そして、こちらのお二方がゲームに出演する文豪、三毛澤勝治さんと、八村虎之助さんです」
「えぇっ！？」
　蒼の紹介に、紫は驚きの声をあげた。
「三毛澤さんと八村さんって、あの『雪蛍』と『魔法使いの帰還』の？　不世出とまで言われた？」
「八村先生、僕たち褒められているんですか？」
「ありがたいことに、本を読んで下さったようですよ」
　その場に居た全員で、一通り自己紹介を終えた後、蒼が問うてきた。
「お姉ちゃん、もしかして『虜囚列車』も読んだことある？」
「えぇ、あるけど……蒼は？」
　紫の質問に、蒼はぺろりと舌を出した。
「今回『虜囚列車』の作品ダンジョンに挑むみたいなんで、あらすじを教えてもらえませんか？」
「あ、俺もお願いします！」
　寝子高生３人組に頼まれ、紫は目をつぶって記憶を探った。

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