【あま～いひととき】

　プレゼントをばっちりゲットしたら、次はバースデーケーキ探しです。
「つるぎさんの好きなケーキとか……」
「聞いたことないかなぁ。チーズケーキは好きだと思うけどね」
　に、と珪さんは笑いました。先月の彼の誕生日、つるぎに試食してもらったチーズケーキを彼女もたいそう気に入ってくれた、という話を珪にもしておりましたもので。
「あのケーキは絶品だったなぁ。また食べたいくらい」
「ほんとですか？　じゃあ今度、作りますね」
「ははは、楽しみにしてるよ」
　といったやりとりはさておき。件のチーズケーキをもう一度作ってもいいですけれど、せっかくですので、またなにか違ったケーキをごちそうしたいところです。
　彼女の好きなケーキ屋さんがあるなら、そこで購入するのもひとつの手。とはいえ、
「やっぱり、自分で作ったケーキを食べてもらいたいですね……！」
　料理は大の得意ですし、お菓子作りだってお手のもの。ここはやはりお手製ケーキでお祝いしたい！
「うん、試食はまかせてよ」
　珪先生もこうおっしゃっております。もうかなーり、胃袋をつかまれているご様子。
　さてどんなケーキを作りましょうか？
「あ、珪さんはお酒を贈るんですよね。どんなお酒にするんですか」
　つるぎの好みは甘めのお酒、果実酒などがお好きとのことでした。
　果実酒といってもいろいろありますけれど、大別すれば二種類。ワインのような、甘さ控えめでアルコール度数も強めな発酵酒と、果実をお酒に漬け込んで作る、梅酒やリキュールなどの混合酒です。
　珪はふむ、と思案します。
「そうだなぁ。つるぎちゃんはお酒飲みでもあるけれど、フルーティーで甘味のあるものが好きらしいから……ちょっと高めの梅酒とか」
「梅酒ですか。梅酒に合うケーキというと……」
　スマホに指先をぺぺっとすべらせ調べてみますと、
「ん～。レアチーズケーキが合うみたい？」
　前回はベイクドチーズケーキでしたけれど、まあチーズケーキかぶりもちょっとつまらないし、別の機会に作ることもできましょう。ということで今回は別のお酒とケーキの組み合わせを模索することにします。
「それじゃあ……前に飲んだことがあって美味しかったのは、レモンの皮を浸して作ったリキュールとか」
「ふむふむ」
「いちじくの果実酒っていうのもあって、変わってるけど美味しかったな。あとは……ニャッカウィスキーの出してるりんごのワインとか」
「うんうん」
　綾花のスマホを横から覗きつつ、あれこれと案を挙げてくれる珪さんの一番のお好みはワインだそうですけれど、これでけっこう、いろんなお酒を飲んでいるようです。オトナのたしなみというやつでしょうか。綾花はなんだかどきどきしたり、それっていったい誰と飲んだのだろう……なんて思うとちょっぴり、もやもやしたり。フクザツだったりしました。
「あ、巨峰のリキュールっていうのも美味しそうだ。いや、迷っちゃうね」
「ふふ。でも、こうやって選ぶのも楽しいんですよね」
「ね」
　甘いお酒選びの甘い時間は、とろりと過ぎてゆきました。



　最終的には珪さん、ぱっと見かけて飛びこんだ酒屋さんで目に付いたいちごの洋酒を試飲の上、購入しました。甘さとアルコール感のバランスが、きっとつるぎの好みにはちょうどよいのでは、とのこと。ソーダ水や牛乳で割っても美味しいそうです。
　さてそんなお酒に合うケーキを、ということで、綾花は思案。数日を経て、苦心の末に試作品を仕上げ、珪先生に試食をお願いすることにしました。
　場所は寝子高図書室の準備室……冬休み中の開館日ですので、図書室には受験勉強をする生徒の姿もちらほらとあり、見つからないようこっそり、こっそりと。
「これは、シフォンケーキだね？」
「はい。すごく迷ったんですけど……甘さの強いお酒に合わせるなら、シンプルなケーキがいいかなって」
　お皿にふわふわ、シフォンケーキ。なめらかクリームには、そっとミントの葉を添えてみました。香りがよくさわやかで、甘い飲み物といっしょにいただくにはぴったりです。
　緊張気味な綾花が見守るなか、珪先生はフォークにケーキをすくい、ぱくりひと口。
「ん！」
「ど、どうですか……！？」
　図書室であることも忘れて、綾花は前のめり。ややあって、
「うん、これは美味しいよ。このままでも美味しいし、あのお酒にも合いそうだし、つるぎちゃんも喜ぶと思う」
　彼はにっこり、微笑んでくれました。綾花、小さくガッツポーズ！
「よかった……これで当日もばっちりですね」
「そういえば。誕生日会をするなら、馳書房の親父さんには伝えておいたほうがいいよね」
　OLDLYNXの前身が馳書房。珪さんとも顔なじみである前店長のお父さんは、つるぎに店長の地位を譲って後、お店の地下で行われている古書オークションを主に取り仕切っておりますけれど、
「大丈夫です。もう連絡してありますから」
「あ、そうなんだ……ずいぶん親しくしてるみたいだね」
　つるぎに会いにお店へ出向くと、親父さんとも顔を合わせることになり、綾花もすっかり打ち解けてしまいました。珪さんなどは少々とっつきづらい、昔ながらの頑固おやじなイメージだったそうですけれど、綾花には親切で柔和なおじさんです。
　ともかく、準備は万全！　あとはお誕生日当日、１月１１日をむかえるばかりです。
「楽しみですね」
　綾花の笑みに、珪さん、シフォンケーキをもうひと口……といったところで貸出希望の生徒がカウンターから声をかけ、慌ててお皿を落としかけたのを綾花が間一髪、見事にキャッチ。ふたりでほうっと息を吐いた後、思わず吹き出してしまって、怪訝な顔をされたりしました。